約 301,168 件
https://w.atwiki.jp/chaosdrama/pages/2787.html
少女は長い夢を見ていた・・・。 これは幼いころの記憶か・・・隣には母親らしき人物が。何故泣いているのだろう?ほかにも人はいるが、みんな泣いている。 なんで・・・・?そして母親は幼い私の手を引っ張って、朱雀の紋章が大きく描かれた大きな神社へと歩みを進めている。夢はそこで終わった。 ・・・・・・夢・・幻か。 目覚めたときには、かごめは薄暗い岸辺に倒れていた、どうやら谷から落ちた後そのまま流されたらしい。 かごめ「また・・・・生きてる。」涙が出た、生きているうれしさからではなかった。虚無感からにた何かからの涙であった。 生きていても、もう帰る場所はない。愛しい人も失ってしまった。かごめはその場に倒れたまま虚ろな瞳で上空を見ていた。空は暗く、月や星さえ見えない。 そもそも、今はいつなのか何時何分なのかそれさえも見当がつかない。 しばらくして立ち上がり、岸辺から離れることにした。あそこにはいたくない。しばらく歩き続けると、墓場が見えた。 しかし、みるからに様子が違う。いるだけで息苦しくなりそうな雰囲気が漂っていた。 そういえば以前、ホオリから聞いたことがある。 この世のどこかに、『すべての墓場』がある。 間違いない、あの時聞いた墓場だ。 その墓場は世界が始まったと同時に生まれる。最初は無の土地だが、だんだん様々なモノがよってきて、形作っていく。そこは普通の墓場とは違い、墓参りに来るものもいなければどこかの寺の所有地というわけでもない。 ただ、残骸と生き物の成り損ない共・・・そして世界に対する無数の怨念が集まる負の無縁塚。 人にもなれず魔にもなれず・・・光の加護も受けられず闇の恩恵も受けられず・・・そういった異形の物の怪共が集ういわば世界のごみ溜め。少女は今まさにその場に来ていた。 かごめ「・・・墓場・・・そう、ここが・・・私の最期の・・・ふふふ」 かごめは迷うことなく、墓場へと足を進める。墓石はボロボロではあるがここの異様な空気にあてられたのか、岩とは思えぬほど歪んでいる。 周りに生えている木もまた異形の形で、どれも人相が浮かび上がって、悲しみや怒りなどそれぞれ表情を作っていた。 そして・・・・奇怪な動きをしながら蠢く物の怪共・・・。 かごめはとりあえず、その辺の大木に寄りかかり座る。もう自分に生きる希望などなかった。ここで物の怪に食われてしのうと飢えて死のうともうどうでもよかった。 すると人の悲鳴が聞こえてくる、物の怪に追われて逃げ惑う二人の男女。必死に抵抗しているようだが、物の怪には剣も魔法も効いていない。 男「畜生!なんでだ!!なんで俺の剣技がきかねぇんだ!!」 女「なんで魔法が・・・!なんとかしてよ!!私こんなところで死にたくないよ!!!」女は大泣きしながら男に叫ぶ 男「うるせぇー!俺だって死にたくねぇよ・・!!!畜生!!くんな!!くんなぁバケモン!!」ブンブンと剣を振り回す男、しかし、無駄な抵抗であった。 物の怪共は一斉に襲い掛かり、男と女の肉を喰らっていく。 男「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」 女「いやぁああああああ!!やめっ!やめてぇええええええええええ!!痛ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!いやぁあああああああああ!!!!!!!!!」 物の怪共に食われやがて、声は小さくなっていく。そして、二人の男女は寄り添うように無残な死体となった。 この光景を見ていたかごめは、安堵していた。 やっと死ねる、やっと自分はこんな世から解放される・・・。そして物の怪共に自分はここだと伝えるべく、石を投げる。 コツンと音が鳴り、物の怪共はかごめの方を向く。そして、ジリジリと歩み寄る。 恐怖は感じなかった・・・、食われるのは痛いだろうが、すぐに終わる。終わればもう生きる必要などない。 何もかもを失った自分にはお似合いの死だ。そうして、かごめはゆっくりと目を閉じた。物の怪共の足音がかごめの前でとまる。これで、やっと-------- あれからどれほど立っただろうか。一向に食いかかる気配がない、それどころか先ほどの物の怪特有のおぞましさも感じられない。かごめはふと目を開け、物の怪共を見た。 物の怪共はじっとかごめをみている。見ているだけで、何一つしてこない。 そして、踵を返し物の怪共はかごめから離れていく。 かごめ「なんで・・?ねぇ・・・?殺してよ・・・・ねぇ?」かごめには信じられなかった。さきほどの勢いはどこへいたのか。物の怪は沈黙を保ったまま去っていく。 かごめ「どうしてよ・・・・・なんで殺さないの?・・・ねえ、殺してよ!!殺してよぉお!!殺せぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」 かごめは叫んだ、しかし、その嘆きの声は虚しく墓場に響いた。自分には死ぬ価値すらないのか・・・?死の救いさえ求めてはいけないのか・・・。 こんな物の怪共にさえ殺す価値がないとまで判断させるほどなのか・・・? かごめは深い絶望感に陥った。失っても尚生かされる一種の地獄・・・。もう、どうすればいいかわからなかった。だが、気が付くとかごめは墓場の奥地へと進んでいた。 奥地には廃屋となった寺や無数の墓石、そして夥しいほどの物の怪共が跋扈していた。しかし、恐怖は最早感じてはいなかった。ここで野垂れ死ぬか、はたまた物の怪と同類になるか。 かごめは生きる希望など当に捨てていた。 物の怪と共に死肉を喰らった・・・。 腹が痛い、でもだんだん慣れてきた。 泥水を啜った。 まずい この地へ踏み込んだ冒険者たちをあの時でた触手のようなもので薙ぎ殺した。 新鮮な水と食料が入っていた、うまかった。これはお金?興味ない・・・。 こんな生活がどれほど続いただろうか・・・気の向くままに墓場をうろついていると、長い階段が施された岩山を見つけた。 上には社がある、しかもそこには何かの紋章が描かれている。 朱雀だ しかもその朱雀の紋章は夢で見た物、そして自分の腕に浮き出ている紋章と瓜二つの物。それにひきこまれるように一歩一歩階段を上がっていく。 境内はやはり荒んでおり神社の面影はなかった、しかしここだけ物の怪がいない。それどころかここの空気だけが新鮮である。 廃屋と化した寺の中にも、近くにある沼の中にも物の怪は多く存在した、しかし、ここだけいないのだ。 しかし、かごめはこの状況に驚きはしたものの、大したことではないだろう、と判断しこの神社の捜索をするとともここを拠点とすることにした。墓場に来て初めて居心地の良い場所に出会えたからである。 神社の裏には小さな祠があった、中に巻物が入っている。祠を開け、巻物を手に取ってみる。 『無縁流舞拳』 …と書かれた巻物であった。拳法の奥義書なのだろうか?興味半分で巻物を開いてみると、やはり拳法の巻物であった。 食う、寝る以外やることもないのでその拳法をやってみることにした。するとどうだろう、驚くほどにその拳法の型が体になじむ。 拳打技・蹴撃技その巻物に書かれている技の鍛錬をやっていくうちに、みるみるマスターしていった。 この何かができるようになった達成感、覚えがあった。いや、むしろ思い出したと言ってもよいだろう。あの村で初めて仕事をし、「ザー…(※ノイズ音)」と共にこなしていき過ごした日々を。 かごめ「あれ・・・?あの人の・・名前・・・・あれ?」名前が出てこなかった、しかし、今はもうどうでもよかった。少女に人としての喜びが戻ってきたのだ。 少女はそれだけで満足だった・・・しかし、思い出したところでここから抜け出せられるわけでもない、それでも、最後に人に戻れたのだからよりとする、という考えでおさめた。 一方・・・・・・・。 ???「チクショウ、チクショウ!・・・まさかこの俺としたことが・・・政府でも名を挙げたこのガタル様が、横領バレちまうなんて・・。」 ガタル「へっ、まぁいいや・・・・俺には六式がある。これさえあれば例え政府軍が総出で俺を捕まえに来たとしても・・・・デュフフwww」 ガタルは周りを見渡した・・・この場所は聞いたこともあったし、資料室で見たこともある。 ガタル「ここが・・・墓場、か。へっ・・・天地創造と同時に作られた、光にも闇にも属せなかった云わば世界の廃棄場所・・・。だがだがだがぁ~?俺は知っている知っているぞ~?デュフフww」 回想 「政府本部・資料室」 ガタル「ん?墓場・・・・・ッスか?」 机の上で書類にペンを滑らせている女性に話しかける。白い装束を着て傍らには仕込み杖が置いてある。 女性「ええ・・・そこは天地創造と同時に作られた云わば世界の廃棄場所。我々政府でさえもあの場所へ踏み入ることを拒みます」 ガタル「へー、そんな神話みたいな話・・・ホントにあったんスねぇ・・・。」 女性「ええ、本当に神話のよう・・・。そういえば、こんな話も聞いたことがあります。その場所には、とある邪神を奉る神社があってそこには武人なら誰しもが欲しがるであろう奥義書のようなものが眠っているとか・・・。」 回想終了 ガタル「どこでそんな情報が手に入ったのかはしらねぇが・・・ま、欲しいわな。俺の長年鍛え上げたこの六式とその奥義書とやらが加われば・・・デュフフwww」 男はズカズカと物の怪を避けながら歩いて行った。 かごめは今日も廃れた神社で修行に取り組んでいた。何のためにそのようなことをするのか、ただやることがないからただの暇つぶし程度に取り組んでいたが・・・徐々に腕を上げていく。 一通り終えた後、またエサを調達しに行く。エサと言ってもまた人肉であったり雑草であったりとまちまちだ。最早ケモノの食生活である。しかし、少女は、稽古をすることによって人間らしさを 保っていた。心の奥底まで物の怪に成り下がるつもりはなかったからである。暇つぶし程度に取り組んでいたことが以外にも役に立った。 かごめ「これは・・・・食べられない。・・・・これは・・・・無理」食料を仕分けしていく。 その光景を木の陰に隠れながらガタルは見ていた。 ガタル「(なんだぁ?・・・こんな辺境の地で暮らす子供なんていたのか?・・・だが、油断は禁物だな。ここには物の怪しかいない。ということは奴も・・・。)」 ゆっくりと気配を悟られない様に近づく。 ガタル「(とる会えずふん捕まえて、巻物の居場所を・・・探る!)」『剃ッ』 鍛え上げた六式技、『剃』により瞬時にかごめの背後に現れる。かごめは背を向けたままである。 ガタル「悪く、思うなよ!!」こちらに向くこともないかごめに拳を振り上げる。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/574.html
ギーシュの奇妙な決闘 第三話 『平賀才人』 平賀才人に『貴族という生き物をどう思うか?』と問いかければ、こう応えるだろう。 ――最初は存在そのものに無関心だったけど、次にはた迷惑に感じて、その次に反吐が出るほど嫌いになった。 平賀才人の中の貴族像とは、そういうもので固まりつつあった。 ツンデレによるツンツン補正もお題目もなく言おう。ルイズは当初、才人のことを間違いなく恐れていた。 彼女にとって初めての使い魔であるリンゴォは自分をも超える魔法(少なくとも、彼女はそう認識していた)の使い手であり、自分を敬うどころか見下し、軽蔑しきっていた。 リンゴォがギーシュとの決闘に望もうとした時、彼女は止めた。『メイジが平民に負けるはずがない』と、彼女なりに必死に止めたのだ。 ……そんな彼女に対してリンゴォが無言で向けた軽蔑の視線を、彼女は忘れないだろう。 リンゴォ・ロードアゲインは、結局彼女の静止の言葉に対して、何の感想も残すことなく『消えた』。 彼女からすれば、好意を軽蔑で返されたのであり、不快感をぬぐう事はできなかった。この不快感がリンゴォの持っていた得体の知れない能力と、決闘に対する異常な姿勢が想反作用を起こし、彼女の中の『リンゴォ・ロードアゲイン』という虚像は、酷く得体の知れないものになりつつあった。 ここで余談を語ろう。ハルキゲニアにおける『決闘』という概念は、読者諸氏が連想するような決闘とも、リンゴォが至上とする決闘とも、大きくかけ離れたものになっている。 昔はリンゴォが目指したもののように、お互いの全てをかけた公平な果し合いだったのだが、貴族の本質が腐敗するにしたがって、決闘という神聖な行為も、形骸化して言ったのだ。 すなわち、『命をかけた決闘』から、『貴族同士のお遊び』のレベルにまで堕落して行き、今では杖を落としたほうが負けで、相手を傷つけないのが『粋』という、スポーツのようなルールが後付けされている始末である。 貴族全体が腐敗し始めたからといって、全ての貴族が腐りきっているわけではない。ルイズやキュルケなどは貴族の中でもかなり『マトモ』な部類に入っている……だからこそ、ルイズは今の形骸化した決闘に、命を賭ける意義を見出せなかった。 ルイズからすれば、お遊びに対して異常(と、少なくともルイズにはそう見えた)なまでの執念を燃やすリンゴォに対して、呆れより恐怖が先立った。 リンゴォのような『生き物』は、ルイズの世界にいなかった。 ゆえに、恐怖した。 ――ゼロのルイズが召還したのは人間ではなく古代の悪魔だ。 本来ならば彼女自身が真っ先に否定すべき馬鹿げた噂だった。証拠もヘッタクレも何もない噂話を、ルイズはすんなりと事実として認めてしまった。 ひとつは、時間を操作するなどという馬鹿げた能力を、人間が使えるはずはないという事実に基づいた先入観。ひとつは、彼女自身が『ゼロ』と呼ばれる度に傷つけられてきた彼女自身のプライドだ。 自分は悪魔を召還した。自分は悪魔を召還できる! そう考えたほうがはるかに楽であったし、プライドも傷つけられない。彼女は、『楽』な道へと逃げる事を選んだのである。 コレは彼女の弱さだろうか? 否。 彼女は元来優しい人間である。彼女の優しい少女としての部分は、自分の使い魔が級友を殺そうとした事実が重すぎた。 血まみれのギーシュ、泣きながら自分をなじるモンモランシー。二つの光景は彼女の精神を強かに打ちのめした。そんな彼女の前に垂れ下がってきた一本の蜘蛛の糸。それにすがった彼女を誰が攻められるだろう。 使い魔が制御できなかった、という事実も、彼女の精神の『気高さ』を磨耗させる要因だった。『ゼロ』は所詮『ゼロ』なのではないか? ……普段ならば彼女自身が持つ『気高さ』で軽く耐えて見せるところだが、リンゴォの異常性や級友を殺そうとした事実に打ちのめされた彼女では、耐え切れるものではない。ならば、使い魔が制御できなくて当然のものならば? ……事この一件に関して、彼女を攻める事ができるのは他ならぬ彼女自身だけだろう。 自分は悪魔を召還した。してしまった。 その事実だけでも重いというのに! 今日又再召喚を行う事になってしまった! ルイズの内心の不安は只一つ。 『又、リンゴォのような使い魔を召還してしまったらどうしよう』 又、悪魔が級友を殺そうとしたら? 又、悪魔を制御できなかったら? 彼女の精神は、ボロボロだった。内心の恐怖に耐えるだけで、精一杯だった。 そして、召還に応じてこの世界へ降り立ったのは……人間だった。 平民の、『リンゴォと同じ人間』だった! ギャラリーの誰かが上げた小さな悲鳴を、ルイズは確かに聞いて……その声の主に、感謝した。その声がなければ、自分が変わりに悲鳴を上げていただろうから。 ――簡潔に言ってしまおう。 平民が束になっても敵わないといわれるメイジたち――オールド・オスマンですら――は、召還された極々ふつーの、スタンド能力なんぞ持ってない、うろたえてるだけの才人に対して、ビビリまくっていたのだ! 滑稽通り越して、呆れるべき領域までぶっ飛んだ話である。 肝心の才人はといえば……目が覚めるなり目の前で泣きそうな顔をして怯える少女を見て、たいそうビビッた。 しかも、だ。 「…………」 「へ!?」 才人が必死で状況を把握しようとしている間に、少女のかわいらしい顔が眼前に迫り…… 唇が、触れた。 いきなりの状況。いきなりの美少女。そして、いきなりのキス。そして、直後に訪れる全身を焼くような痛み。 (理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能っ!) どこぞのハーヴェストな少年のように混乱する才人。その後、自分のおかれた状況をルイズに教えてもらうにつれて、彼の混乱の度合いは更に増していった。 ちなみに。 才人がリンゴォほどの凄さを持たない使い魔だと知った途端、ごくごく普通にこき使いだした事を、ここに記しておく。 「彼が、そうなのかい?」 一人の少年が洗濯板を使って原始的な、しかしこの世界では極一般的な洗濯にいそしんでいる。 その光景を遠くに眺めながら、ギーシュは傍らに立つルイズに問いかけた。その声色の成分は、半分が意外さだ。 汗だくになりながら小さなパンツをごしごし洗い、労働の汗を輝かせているその姿から、彼がメイジに勝つほどの使い魔だとは到底思えないのだが。 汗を拭いてすがすがしそうにいかにも『いい労働したぜ!』的な笑顔を浮かべられると……はっきり言って、貴族の下男だといわれても違和感がない。 どーでもいいが才人よ。お前が今汗を拭いたそれは、自分で洗ってたパンティーだぞ。 「というか、ミスヴァリエールは使い魔に洗濯をさせてるのか」 「ルイズ……あなた、いくらなんでも怠けすぎよ」 個人の洗濯物は、個人で片付けるのがこのトリステイン魔法学校では普通だ。ギーシュや、退学になった『黒土のボーンナム』でさえ、自分の洗濯物は自分でしていたというのに。 「し、仕方ないでしょ! あいつ、普段は本当に普通の平民なんだから!」 ギーシュとモンモランシー、二人いっせいに呆れ交じりの目線を送られて、ルイズは顔を間かにして反論した。 「いきなり強くなったのだって、自分の力じゃ使えないみたいだし、あのくらいしか役に立たないのよ!」 「だからって普通、女の子が男に下着洗わせる? 慎みってものがたりないんじゃなくて?」 「……ふん。二股かけられた相手とずるずる続いてるような女に、慎みなんていわれたくないわ」 刹那、モンモランシーとルイズの間に火花が散る。それも、実体化したら付近一帯火の海になるような、特大の奴が。 元々この二人は相性がいいとは決していえない間柄だったのだが、先日の決闘によってギーシュが負傷した事で、二人の間に漂う空気は、激烈に悪くなっていった。 モンモランシーが一方的に難癖をつけてるだけで、ルイズのほうから喧嘩を売ったことはないのだが。それでも毎回火花が散るのは、彼女の性格上やり返ささずにはいられず、それに又モンモランシーが言い返して……という、悪循環のなせる業であった。 (こ、ここは『沈黙』していたほうがよさそうだっ! よくわからないが、僕が口を出したら間違いなくあの視線が僕に向けられる! 僕は無事じゃあすまない!) 会話の中に、『二股』の単語が混ざっていたのを耳ざとく見つけ、ギーシュは二人をあえて止めず、沈黙を守った! 賢い選択ではあるのだが……傍から見てると、喧嘩する女二人を前にしてだまる男いう、とてつもなく情けない光景である。とてもじゃあないが、先日リンゴォを打ち破った男と同一人物とは思えない。 「大体、今日の一時限目は使い魔同伴でしょう? あれだけの量の洗濯物を一人で制限時間以内片付けるなんて無理に決まってるじゃない。そんな事も分からないの?」 「いつもは一人じゃなくてあの時のメイドが手伝ってるのよ! あー、もう! 何で今日に限っていないのよ!」 「……あの時のメイド?」 ルイズの使用した『あの時』という表現が、ギーシュの脳裏で小さな化学反応を起こし、一人の少女の像を映し出す。 手のひらに巻かれた包帯が痛々しいその少女は、確かに自分とリンゴォの決闘のきっかけとなった、あのメイド…… 「……そのメイドって言うのは、僕とリンゴォの時に香水を拾った?」 「え? ……ええ、そうよ。 才人に助けられてから、何かにつけてよく会ってるらしいのよ」 ポツリともらしたギーシュのつぶやきに気付き、ルイズが己の知りうる知識を口に出す。 「確か、名前はシエスタだったかしら。あの手じゃあ洗濯物も出来ないから、才人が手伝うとか言い出して、最近じゃメイドの洗濯物も一緒にやってるのよ! 全く! 使い魔の癖にご主人様に何の相談もなしに!」 そういう関わりならば納得だ。 敗れたとはいえ貴族に善戦し、半死半生の傷を負わせたリンゴォの存在が、学園に勤める平民達の間で神格化されていることは、ギーシュもモンモランシーから聞き知っていた。 その後釜として召還された才人がボーンナムを倒したことで、『我らが剣』ともてはやされている事も。 「へえ。彼女はシエスタというのか……ミス・ヴァリエール。彼女と少し話したいのだけど、取り持ってくれないかな?」 「それはいいけど…… ゲ 」 ここで、彼の名誉のために告げておこう。 彼がシエスタを見て声を上げたのは、自分が彼女というレディを必要以上に怖がらせた現実と、それに対する謝罪がまだだった事を思い出したからだ。それだけなのだ。イヤホント。 決して、シエスタの巨乳が気になったとか、彼女を口説こうとしたとか、そんな事は全ッ然考えていなかったのである。 (とはいったものの、どうやって彼女に謝罪すればいいのやら……ん? …… ゲ ? ? ) 思考の只中において、ギーシュはようやくルイズがあげた紳士淑女にあるまじき奇声に気が付き、彼女のほうを振り向いた。 そして、 「 ゲ 」 彼も奇声を上げた。 視線の先には、モンモランシーが一人でたたずんでいた。ルイズはいない……どーやらスタコラさっさと逃げたらしい。 さて、そのモンモランシーであるが……その姿勢を、たたずんでいると表現するのは、誤謬というものだろう。仁王立ちのほうが正しい表現だ。 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨という重すぎる音が鼓膜を震わし、髪はゆらゆらと揺らめいて……ギーシュを見つめるその瞳は、屠所の豚を見るかのよう。 「ギーシュ……? 二股に飽き足らず、今度はメイドに手をつけるつもり……?」 まあ、彼自身にどんな思惑があろうと、彼が二股云々の会話の途中に、他の女性の話題を出したというのは確かであり。 モンモランシーがギーシュを疑ってかかるのも、無理なからぬことで。 「も、もんもらんしー!? 一寸待ってくれたまへ……ぼ、僕は病み上がりであって……あの、その、なんでそこで棍棒を取り出すのかな!? ってか、君その棍棒何処から…… ギ ャ ー ッ ! ? 」 「……?」 なんかカエルが踏み潰されたよーな不細工な悲鳴なんだけど、どことなく親近感が沸く悲鳴が聞こえたような気がして、才人はふと顔を上げてあたりを見回す。 ――どうかしたんですか? 才人さん。 いつもならそう聞き返してくれる相手の不在を今更ながらに思い出し、嘆息すると選択に戻った。 手を動かしながら、先日はなった冗談にくすくす笑うシエスタを思い出し、才人はその表情を和らげた。まだどこかに影があるが、出会った当初に比べれば、かなり明るくなった…… (そうだよな。元々あんな風に明るい表情をする娘だったんだよなあ) しみじみと思いながら、才人はシエスタに始めてであった、5日前の事を思い出していた。 ――あの、どうかしました? ルイズに洗濯物を言いつけられ、途方にくれていた才人に、やさしく声をかけられたのがシエスタファーストコンタクトだった。その時の表情は、今浮かべているような陽光を浴びた笑顔ではなく、常に陰影を引きずっているかのような悲しみと憂いに満ちた代物。 リンゴォの死で最も衝撃を受け、悲しんだのは間違いなくシエスタだった。そもそもの原因が、彼女が香水のビンを拾い上げ、ギーシュに責められているところを、リンゴォがかばったことにあるのだから。 彼女は、こう思っていた。『リンゴォを殺したのは自分だ』と。リンゴォが死んだと聞いた直後は、人目を憚らずすすり泣き、丸一日部屋から出てこなかったほどである。彼女は、リンゴォとギーシュが決闘をすると聞いた時、恐ろしさから逃げ出してしまった。今の彼女には、そのことを謝る事すらできない! 実際、彼女の考えをリンゴォが知ったら、『余計なお世話だ』と呆れることだろう。彼はあくまで彼自身の魂の成長のために決闘をし、その命を散らしたのであり、シエスタのために決闘をしたのではない。シエスタをかばった事とて、メイジを脅威と認識していなかったリンゴォにとっては、人が落としたものを拾ってやったという程度の親切でしかなかった。 本人がこの場にいたら、笑うこともせずに『決闘を侮辱するな』と怒っただろう。『アレは俺の意思だ』とも。 だが、この場にリンゴォはいない。死体も言葉も何も残さずに消えてしまった。 シエスタの抱く罪悪感は膨らんでいくばかりだった……平賀才人に出会い、助けられるまでは。 それは、才人が召還された翌日……シエスタと才人が始めてであった日の昼食の席での事。 罪悪感を初めとした負の感情は、どんなものであっても悪い形で抱いている本人に影響を与えるものだ。シエスタは、普段の彼女ならばやらないような致命的なミスをしてしまう。 ――ドレッシングの配膳の最中に転んでしまい、食事をしている貴族にそれをぶちまけてしまったのである。 その時シエスタが連想したのは、リンゴォ……自分が死に追いやった男、彼が決闘に赴く事になったきっかけだった。 まさか、自分のせいで又人が死ぬ……!? 精神的に追い詰められていたシエスタは、妄想じみた強迫観念に襲われた。リンゴォの見てもいない死に様がフラッシュバックし、彼女を軽い恐慌状態に陥れたのである。 彼女は必死で、自分がドレッシングをぶっ掛けた貴族に謝った。もう人を死なせたくない、殺させたくないという一心だった。 恐怖に震え、顔を青くして許しを請うシエスタの有様は、ギーシュに粗相を働いた時の比ではなく、それを見ていた貴族達の同情を買うには十分すぎるほどに、痛々しいものだった。もしギーシュがこうして謝られたなら、バラの花でも片手にして、慌ててシエスタを励ましただろう。 不幸な事に、相手はギーシュではなく、『黒土』の二つ名を持つ、ボーンナムだった。彼にとってシエスタが蒼白になって詫びる姿は、同情心ではなく性的興奮を駆り立てる類のものだったのである。 何のためらいもなく。 ボーンナムは地面に付いたシエスタの手のひらに向かって、食事用のナイフを振り下ろした。 簡潔に記そう。 悲鳴をかみ締めるシエスタと、その有様を見て笑っているボーンナムの姿に、才人はプッツンした。 ――ボーンナムとの決闘のくだりは、特筆する事もないだろう。 皆さんおなじみの話の流れであり、本編ギーシュと同じように、挑み、得意になり、ルイズに庇われてから勝利した。 まあ、才人自身プッツンしていたので、勢い余ってずんばらさと叩き切ってしまった訳だが、そのことに関して後悔はなかった。 ――あれが、貴族だってのか!? 後悔の代わりに才人の胸に残ったのは、『貴族』というカテゴリに対する激しい嫌悪感である。 ボーンナムという男が、貴族社会でも爪弾きにされるほどに稀有な例なのだが、謝罪するシエスタの手のひらにナイフを突き刺し、踏みにじるという人でなしの所業を行う姿は、才人の中の『貴族像』を歪んだ形で固めるには十分すぎるインパクトがあった。たとえ事実を知ったとしても、『貴族』というカテゴリそのものに対する感情は変わらないだろう。 極め付けに、決闘の直後、自分を『我らの剣』とよぶマルトー料理長からこう言われたのである。 シエスタを元の明るい娘に戻すのを手伝ってくれ、と。 彼は多くを語らなかったが、そういった直後に貴族を睨んだ料理長の目つきや、貴族に対して異常に怯えていたシエスタの態度が、彼女の心に傷があり、それが貴族によるものなのだと才人に確信を抱かせてしまった。 この決闘以降、才人の貴族を見る目には、かなりネガティブな成分で構成されたサングラスがかけられる事となった。 例外といえば、自分にダイレクトな好意を寄せてくるキュルケと、次点で主であるルイズの二人ぐらいである。 キュルケは言わずもがな、色気にほだされてる。情けないが野郎のサガというものだ。 自分自身で目にした、召還直後に浮かべた涙と、シエスタから聞いた、『ケガをした自分を看病してくれた』という事実……自分で見た光景と人聞きのエピソードの二つの影響で、どうしてもルイズを嫌いきる事ができない才人であった。 扱いだけなら犬扱いやらなにやらで最悪に近いのだが。 「ふぅ」 洗濯を一通り終えて、才人は再び、汗をぬぐう。今度使ったのはパンティじゃなくて、ご主人様のスカートだったが、スルー。 洗濯の終わった衣類を入れた籠を持ち上げ、その場を去ろうとして……嘆息した。 結局。 洗濯をしながら待っていたのだが、結局シエスタは現れなかった。 毎朝、話しかけるだけでいい。それだけで、あの子は明るくなっている…… マルトーからそういわれて、才人は毎日欠かさずにシエスタと積極的に会話した。道ですれ違えば仕事を手伝ってやり、炊事場でかちあえば洗い物をしながら談笑し…… 才人自身がシエスタを明るくしたいと願い、彼女との会話を楽しみにしていたので、いざいないとなると、胸に穴が開いたようだった。 (シエスタ、どうしたんだろう) 首を傾げて、才人は籠をヨイショと持ち直す。彼女のことは気になったが、この洗濯物を早く干さなければ、匂いが篭ってしまう。 たった一週間足らずの使い魔生活だというのに、早くも主夫ッ振りが板についてきた才人であった。 (そういえば、昨日の晩様子が可笑しかったな) とりあえず、洗濯物が終わったら顔を出しに行こう。 主人に無断で本日の予定を決めて、 一方その頃。 「……と、というわけで。僕はあのメイドに謝りたかっただけなのサ」 「そ、そういう事は早く言いなさいよね」 (いや、言おうとしてたけど、あんた真っ先に喉攻撃して声潰したでしょ) ギーシュがようやくモンモラシーを説き伏せていた。真っ赤になって反応する香水のメイジに、ゼロのメイジは思いっきり突込みを入れたい欲求にかられたが……自重した。 いや、なんか突っ込むとあの棍棒がこっちにも飛んできそうだったので。 ギーシュ・ザ・残虐フルボッコショーを眼前で見せられた身としては、あれに巻き込まれるのは勘弁して欲しかった。 「そ、そういうわけだから……その、シエスタというメイドのところへ、案内してくれないかな?」 バラを片手にふっとキザったらしいポーズをとるギーシュ……まだダメージが残っているのか、足が蟹股上にガクガクブルブル振動していたが。 「それはいいけど……授業はどうするのよ」 「ふむ」 学園に所属するメイジにとって、授業を放棄する事はちょっとした問題だ。学園に在籍するのには問題がなく、厳しいペナルティがあるわけではなく、そういう点では普通の学校と同じなのだが。 問題は、そのメイジの『家』のほうだった。早い話、この学園ではサボった生徒の実家に、その事実を理由から何まで調べ上げてダイレクトに知らせるのである。 そういった事実に対して寛容な家ならばいいのだが……ギーシュの生まれたグラモン家は『命より名を惜しめ』などという家訓があるくらいにそういう事にうるさい。ましてや理由がメイドに会うため。 ギーシュは末弟であり実力もなく、授業をサボったりしようものならかなり厳しい雷が落ちることは明白……だったのだが。 「気にしなくていいよ」 意外! ギーシュは躊躇わず授業を放棄する道を選んだ! 「事は僕自身だけではなく、そのシエスタというレディの『名誉』がかかっているんだからね……まあ、小遣い全面カットくらいは覚悟してるさ」 意外に肝の据わった発言をするギーシュに、ルイズは面白そうに、モンモランシーは面白くなさそう(自分以外の女性にいい顔をして欲しくないらしい)に頷いた。 「おお! 我らの剣よ! 元気か!?」 「うわっ!?」 シエスタを探してメイドの宿舎に向かっていた才人の背中に、声と共に衝撃が走った。 前のめりになって振り向けば、そこには大柄な男が腕組みをして豪快に笑っていた。 この学園の食堂を一手に任せられているコック長、マルトーである。貴族嫌いな平民の代表のような存在であり、才人は彼にたいそう気に入られていた。 「ま、マルトーさん! いきなり叩かないでくださいよ」 「おお、悪い悪い」 せきこむ才人に、全然罪悪感を感じさせない口調で笑い返すマルトー。その笑顔には陰湿的なところは何一つ泣く、からりとした爽快感を感じさせる。 「朝飯は食ったのか? 我らが剣よ。賄いで良かったら、たっぷりあるぜ」 「え!? 本当ですか!」 毎朝ルイズが自分に出す残飯が如き食事を思い出し、才人の表情は明るくなった。脳裏に浮かぶ、暖かそうな湯気を上げるシチューや焼きたてのパン……思わず、唾液があふれ出そうになるが、ふと思いなおした。 脳裏に浮かぶ食事の光景を、シエスタの陰鬱な表情がかき消したのだ。 「そ、そうじゃなくて! マルトーさん、シエスタが何処に行ったか、知りませんか!?」 「?」 慌てて言い直した才人は、マルトーの表情が変化したのに気が付かなかった。 まず、大きく目を見開き、眉をひそめて……痛々しそうに、目をそらしたのである。 「……マルトーさん?」 「そうか……シエスタは、オメーにだけは知られたくなかったんだろうなあ」 「知られたくなかったって」 「我等の剣よ」 マルトーは視線を才人に戻し、戸惑う彼の相貌を見つめて……迷った。数瞬だけ。 シエスタが隠そうとした事実を、自分が明かしていいものか……いやしかし……こいつなら何とかしてくれるかも。 迷ったのは、先述したように数瞬のみ。彼はすぐさま決断し、『事実』を告げた。 「シエスタは……モット伯って奴のところに……」 「ふ、ふふふふふふふふ」 「ぎ、ギーシュ!? 大丈夫なの……」 「だ、大丈夫さモンモランシー。この青銅のギーシュ、これしきのケガ……」 (自分で散々どついといて、何言ってるのよこの金髪ドリル) ふらふらよろめきながら歩くギーシュを必死で支えながら付き添うモンモランシー……その姿を一歩後ろから眺めながら、ルイズは心の中で突っ込んだ。突っ込んでから……ふと、気付く。 ひょっとしてこの女(アマ)、こうやってギーシュを支える事を最初から狙って、過剰なまでのフルボッコを演じたのではないか? だとしたら、まさに外道! である。あるが、 (まいっか) 気付きはしたものの、ルイズはその事実を気にも留めなかった。誤解とはいえぼこぼこにされるようなギーシュの日頃の行動にも問題があるのだし。ギーシュ自身その事を知ったとしても、この男独特の妙な懐の深さで、許してしまうだろうし。 思いながら歩き、目的地……調理場の入り口で立ち止まるルイズ。 「ここのコック長なら、あのメイドの事も知ってる筈よ」 「ああ、ありがとう……」 「けど、あの男確か貴族嫌いなんじゃ」 例を言うギーシュの横で、モンモランシーは学院でも有名な事実を思い出した。 コック長とメイジたちが直接接する機会がないので、さして重要な事柄ではないのだが、今からギーシュがしようとしている事を考えると、避けられない問題だろう。 コック長の立場からすれば、ギーシュはシエスタに絡んでリンゴォを殺した敵であり、情報など教えてもらえるはずがない。 「才人を使って聞き出すわよ」 「いや、僕が自分で聞くさ」 が、ルイズとギーシュは問題にもしていないらしく、ギーシュが震える手で扉を開こうとし、 バ ギ ャ ン ッ ! 「ヤ ッ ダ バ ァ ッ ! !」 飛んだ。 勢いよく開けられた扉に吹っ飛ばされて、景気よく。 ギーシュの体が真後ろに吹っ飛んだ。 本来ならそこまでの衝撃を持たないはずのそれも、ボロボロのギーシュでは耐え切れなかったらしい。 『へ?』 いきなり巻き起こったデンジャーな事故を前に、目を点にする二人。某海賊漫画のコックに蹴られたエイの魚人みたく滑空してったギーシュの行方を、点になった目で見送って。 故に、気付かなかった。 傍らを思いつめた表情の才人が駆け抜けていった事に。 ちなみに、ギーシュであるが。 「うーん……うーん……」 メイドに謝る事もできず、医務室に直行し、夜まで目を覚まさなかったそうな。 なんだかとっても不幸な奴である。
https://w.atwiki.jp/uhauhashirato/pages/14.html
ガガモン「こ・・これは!」 龍之介「破壊されてる!?」 モドキベタモン「ギギ・・・マオウサマノタメハカイ・・・」 龍之介「何故データ種のデジモンが!?」 ガガモン「分からない・・!だけど止めなきゃ!」 龍之介「お、おい!」 ガガモン「酸の泡!」 モドキベタモン「アクアタワー!」 圧倒的にアクアタワーが勝った。 ガガモン「うわあぁぁぁ!」 龍之介「ガガモン!こんな事って・・!うわあぁ!」 その時デジモンミニが光った。 ガガモン「ガガモン進化ぁぁぁ!!」「バトルモン!!」 龍之介「進化した!?」 バトルモン「パワーがわいてくる!いくぞ必殺技!ガトリングフレイム!」 モドキベタモン「グ・・グワアァァァ!!」 龍之介「や・・やった!」 モドキベタモン「う・・うーん、僕は一体?森に帰らなきゃ!」そういって居なくなってしまった。 龍之介「操られてたのか?」 バトルモン「たぶんね・・・」 ジジモン「すばらしい戦いじゃったぞ、お主にデジヴァイスをやろう」 龍之介「ありがとう!じゃあ俺達はもう行くぜジジモン!」 ジジモン「気を付けてな! フォフォ・・・あやつ等の目、昔の者と同じ目をしておった。心配無用じゃな・・・」 続く!
https://w.atwiki.jp/hakomin/pages/45.html
『銀ちゃん球団こと、奈良シルバーシアーズのエース“浦田投手”が鈴鹿学園との練習試合にて完全試合を果たしました』 夕方、一家団欒で食卓を囲む大切な時間に流れたニュースはとある有名な社会人野球クラブチームの話題だった、 何でも、タレントの荻原銀二(おぎはら ぎんじ)が設立した社会人野球クラブチームが 三重の強豪校“鈴鹿学園”と練習試合にて対決し見事勝利したらしい。 流石に高校生相手に社会人クラブチームが、それもあの“浦田達也(うらた たつや)”が投げるとしたら、全く持って大人げない話でだ。 ニュースの内容はこう続いた。 『浦田投手は“打撃が強い高校だっただけに一球一球に力を込めて投げた、絶対に打たせる気はなかった”と話しており、そんな浦田投手の代わりにタレントである萩原監督が高校生たちに代わりに謝っているような様子が見られました……』 「へぇ~、流石浦田投手だねぇ」 亜樹さんの旦那さんが食べ終えた食器を置きながら話しかけてくる、 確かにあの男なら完全試合とかも普通にあるだろうしなぁ……俺は彼の球筋を思い出しながらもひたすらに飯を食っていた。 そうしていると、芦原家ただ一人だけ野球に詳しくない亜樹さんが俺に話しかけてきた、 「ねぇ、浦田さんとはこみんはどんな関係があるんでしたっけ?」 「あ、亜樹さんは俺が甲子園で投げた試合見てなかったんでしたよね」 そこで、俺が説明をしようとすると口にたくさんごはんが入っている由姫ちゃん中に入り勝手に語り始める。 「ふぁこみんとうりゃたさんはにんねんまえ……」 「由姫、ちゃんと口に物を飲み込んでから話しなさい」 一応、話の内容はわかる事はわかるのだが、口に入れた状態で喋る事は亜樹さんは良くないと感じたのだろう、 由姫ちゃんに対して注意すると、彼女は大量に詰めたご飯がなかなか飲み込めず困った顔をする。 しっかし、亜樹さんもやっぱ親だよな、いつも自由奔放に育ててる感じがするけど叱る時は叱るんだ…… そんな事を考えていると、由姫ちゃんは長く口の中で噛みつづけるのに疲れたのか大きく口を開けるとといきなりお椀に口の中の物を吐き出しはじめた。 「一度に飲み込むのは危ないからね」 おぉい! やめろぃ! 口に入れたモン吐き出すんじゃないわ!! 由姫ちゃんは理由を話すものの、その行為を周りからみている人からして見ればあまり気持ちのいいものではない筈だ。 しかし俺はそう思っていたのだが、あろう事か由姫ちゃんの両親である二人はその発想がおかしかったのか大笑いしていた。 「その発想はなかったわぁ、ははは」 「君に似て面白い事をするもんだ、ハハハ!」 おいおい、それでいいのかよ――こいつなら高級そうなレストランだったとしても同じことしそうで怖いんだが…… そんな事を言おうか云わないか迷っていると、由姫ちゃんは亜樹さんに先ほどの話題について語り始めた。 「はこみんと浦田さんは二年前の甲子園で大接戦を果たした仲なんだよ、 当時、全国的に有名な投手だった両投手は13回まで両者無失点で投げ続けて でも先にばてたのは浦田さんの方で14回の裏にはこみんのサヨナラホームランで何とか競り勝ったんだよ~」 「ま、アイツは降板しちゃったから、投手としての勝負自体はついてないんだけどな」 ――二年前の甲子園、準決勝戦では俺が所属していた鏡星高校は1点も許さずに、 そしてアイツの所属していた……何高校だかは忘れたが1点も取らせずに13回を投げていた。 その試合、決勝点となったのは降板したアイツの代わりに登板した投手から打った俺のサヨナラホームランだった、 ……たしかそいつもシルバーシアーズに入団したらしいのだが、 山科大吾(やましな だいご)っていう速球型の投手である。 そいつの甘く入った球を打った、ただそれだけであり結局の所俺は“浦田達也”には完全な勝利していない。 アイツには俺には無い“投手としての才能”が備えられている、 身長だの体格だの能力だの、それらは遥かに俺の方が上なのにも関わらず、 アイツは……下手したら俺を越すほどの実力を持っていたのだ。 「ご馳走様でした」 俺はそういって食事を終えるとすぐに部屋に戻りベットへと横たわる、 どうせ今日も【 160キロ投げれるけど何か質問ある?】と俺が立てたスレに対した質問は来ていない事だろう。 俺はさっさと寝て明日から始まるバイトに専念しよう――終わったら由姫ちゃんと一緒に遊んでやるんだ―― そんな事を考えながら、俺は体の力を抜き枕に顔を埋めた、 そして俺は一度も目覚める事なく深い眠りにつき、次の日を迎えた―― 翌日、俺は五時半には起床しバイトへと向かう、 高収入で適当に息抜きが出来るバイト、尚且つ楽しい仕事を探した俺が選んだバイト―― 「はこみんせんせい、おはようございますっ」 「おはよっ!」 バスの中、俺はバスが停車するたびに開く扉から出て幼稚園児達、およびその保護者の方々と挨拶をする、 このシチュといえば一つしかない、そう俺は幼稚園の先生、正確に言えば先生の補佐、としてのバイトをしているのである。 俺はいま、この“えいこう幼稚園”のアルバイトとして先生をやっている。 子供が大好きな俺にとってはこういう仕事は楽しくて仕方ないぜ! しかし本来なら資格すら持っていない俺にとってはありえる訳がないこの幼稚園のバイト、 実際俺は、何故幼稚園の園長さんにこの仕事に誘われたのかが理解できていない――そしてあの男も…… そんなことを考えながら、俺たちのバスが幼稚園へとたどり着いた後の事。 俺は理由を考えながら園児たちを誘導していると入口前であの男と出会った―― 出会い頭、その男はメガネを深く掛け直しながら俺に話しかけてきた。 「……如何したはこみん、考え事か?」 「たっちゃんか……いや大したことじゃない」 メガネをかけ可愛らしい先生用のエプロンをしている黒髪の男だ、 いつも笑顔、というのはおかしいが、まず笑みを浮かべてない事がないその男は笑いながらまた俺に自慢話を持ちかけてきた。 「でさぁ、ニュース、見てくれたか? 俺の活躍めっちゃ特集されてただろう?」 「ああ、見たよ……大人げねぇ投球してくれちゃって……」 俺はそういいながらたっちゃんの肩を小さく小突いてやる、 そう、彼こそ俺が二年前、甲子園で対決し最大の好敵手として俺の中に存在した“浦田達也”(通称:たっちゃん)本人なのだ。 たっちゃんと俺は甲子園が終わってから互いに働き始め、同じバイト先に勤務する事になったのだ。 子供たちとふれあい、楽しく過ごせるバイトだ――高校時代は好敵手であったがこのバイトを通して俺ら二人はとても共感できる所が多い事を知り、今では数少ない俺の友達の一人となった。 「はこみんせんせい!たっちゃんせんせい! あそぼ~」 「まだあさのかいはじまらないから~」 園児達が俺らを呼んでいる!行かなくては! そう思っているとたっちゃんは俺よりもずっと早く、園児達の方へと向かっていた。 「はははっ、じゃあ鬼ごっこだ、はこみんが鬼な~」 「お、おい……待て!待ってくれ!」 俺が近寄ろうとすると直に園児達は逃げ出す、 鬼ごっこがスタートしたようだ、しょうがない……鬼らしく鬼のような走りをみせてやるぜっ☆ ――本日も、楽しい一日が始まります。 第二話 スキンシップ<戻 次>第四話 らしい
https://w.atwiki.jp/ittaisan/pages/49.html
原文 元ネタ 備考 後部景吾 漫画『テニスの王子様』の跡部景吾 二つ名の「氷帝」は跡部が通う「氷帝学園」から 鷹田延彦 プロレス団体高田モンスター軍団総統の高田延彦 カバオ 漫画『テニスの王子様』の樺地宗弘アニメ『アンパンマン』のカバオ イソリソ・オブ・ジョイトイ タレントのインリン・オブ・ジョイトイ漫画『テニスの王子様』の北園寿葉 「後部様っ!オラお弁当作ってきたんだ!」「邪魔だメス猫!」 漫画『テニスの王子様』の跡部と寿葉のやり取り 「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック・・・・・契約に従い 我に従え氷の女王来たれ 永久の闇!永遠の氷河!」「全ての命ある者に等しき死を其は安らぎ也!おわるせかい」 漫画『魔法先生ネギま!』のエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの呪文詠唱 「俺様の美技に酔いな!」 漫画『テニスの王子様』の跡部景吾の決め台詞 J ゲーム「ソニック」シリーズのソニック・ヘッジホッグ漫画『魁!男塾』のJ
https://w.atwiki.jp/sousakurobo/pages/355.html
『Diver s shellⅡ』 第三話 「α12遺跡」 第二地球暦148年 8月28日 14時33分 α12遺跡海域 ダイブスーツを着るといつも悲しくなってくる。 感傷に浸るだとか、悲しい過去が、とか、その類の悲しみではない。それは、そう、『1+1=2』が不変だという事実にも似ている。 手足に布地を馴染ませ、全面のチャックを上まで引っ張る。手首にあるスイッチを押し込むと、スーツそのものに仕込まれた電子機器が眼を覚ます。 潜水機は構造上、人の乗る部分は狭くならざるを得ない。狭く身動きが取れない上に長時間の精神的な負荷を与えられる。それに対処するためにダイブスーツは高機能に作られている。 疲れにくくする繊維構造や、バイタルデータの採取、体温の調整など。その構造上、ダイブスーツは水着のように体を締め付けるようになっているのだ。 ―――……小難しい説明を飛ばして悲しくなってくる原因を言うと、『体型がモロに出る』ということだ。 脂肪が少なく、筋肉も少ない、良く言えばスマート、悪く言えば貧相な体型。 ジュリアは、結局膨らむことなくここまできてしまった両胸を一瞥し、溜息をついた。 大人になれば大きくなるとちょっと期待していたのだ。でも現実は違った。悔しいというか、やるせない。男勝りな彼女だが、思考と性格の全てが男性ではないのだ。 胸などいつ使うかも分からないが、理由もなく悲しい。よく分からない。 ダイブスーツが体に馴染んだことを指先で触れて確かめる。首、腰、腕。大丈夫。違和感は無い。外気温を遮断してくれるので、今の大気の状態が分からないが、それが普通だ。 準備は整った。ジュリアは、先に潜水機ハルキゲニアに乗り込んでいるクラウディアの元へと足を進めた。 運転席から船首へと行けば、穏やかな海が見えてくる。程よい角度で光り輝く太陽から降り注ぐ日光が海面に反射して、不規則かつ規則的な光の渦を眼に届け、ダイブスーツに光の濃い部分と薄い部分を映す。 船の中央にある潜水機の格納庫へと入る。ごろりと寝た体勢の潜水機ハルキゲニアがあり、股間の部分の『殻』の前面が開いていた。歩み寄って、中に声をかける。 「もう行けそう?」 「あーそーねぇ。……はいはいっと。行けるかなー」 中からキーボードを叩く音や、レバースイッチを操作する音がしてくる。慌しくも聞き馴染んだ音だ。 中へと乗り込み、前の操縦席へと腰をかける。すると『殻』が閉鎖され、外部と内部から固定される。これで二人は外部とは完全に遮断されたことになる。 メインシステムを起動。クレーン車が動くような重厚な音がして、潜水機の間接部などが微かに動き、操縦席内部に外部の映像が投影され始めた。電池から本格的に電気が送られ、潜水できるようになった。 ジュリアが後ろを見てみると、席の端っこからこちらを見てきていたクラウディアの顔があった。つまり顔だけ出ている状況だ。刺さりそうなアホ毛がクラウディアの頭から突き出ている。 全ての確認が終了した。機体を投下するために安全装置を解除。格納庫の床のロックが解除された。 「よし、行くぞ」 「どうぞ~」 床が開き、二人の乗った機体が海へと投じられた。 鋼鉄の闖入者に腰を抜かした魚群が四方に逃げた。 ハルキゲニアが、光の無い暗黒の世界を落ちている。 否、沈んで行くというのが正しいのだが、自らの推進力でほぼ真下へと向かっていっているのだ。 脚部のスラスターを動かすことなく、背中から生えた水中翼で位置を調整しながらの急速潜航。時折一瞬だけライトを点灯して周囲の様子を探りながら、機体の各部からゴマ粒ほどの気泡を上に昇らせつつ泳ぐ。 肩に引っ掛けられているのは、長距離魚雷を発射する三連装魚雷ランチャーに、中世の騎士が装備するようなランス型のパイルバンカー。足や胸には、筒状の何かが取り付けられている。『とっておき』だ。 今二人が挑戦しているα12遺跡はさほど難しい遺跡ではない。採石場のような構造の谷にへばりつくように広がっており、無造作に空けられた縦穴が無尽蔵に存在する遺跡である。 深度5000m地点。機体の右脚スラスターが不調を訴えるが、二人は動揺もせずに黙々と対処する。中古の機体を改修しては改造してきたこの潜水機には良くあるトラブルなのだ。 十字型の、ヒトで言う『眼』の中で複数のセンサーが蠢いている。遠くから見れば十字のモノアイだが、近くで見るならば、十字の中にセンサーやらカメラやらが入っているのが見えるだろう。 ハルキゲニアなど、よく知らないヒトが聞いたらかっこよく聞こえる名前だろうが、その実は奇妙すぎる生き物の名称で、機体だってオンボロ。名前が全てを表しているとは限らないのだ。 水圧で軋む各所をなだめながら沈んでいく。マリンスノーは見受けられず、深海魚の姿も希薄。音を立てないように、下へ、下へと潜る。 ジュリアはニコチン不足を感じながらも緊張を解かず、集中も切らさずに海底を睨んでいる。クラウディアは、眠たげな顔をキリリとさせ、キーボードを叩き、レバースイッチを操作している。油断で死んだら死ぬに死ねない。 ――深度、5100m。音は無い。 ――深度、5300m。機体を反転させ、背面部可変水中翼で安定をとりながら脚部スラスターにより急減速。みるみるうちに迫る海底スレスレのところで機体は静止した。 上を見ても何も見えはしない。頭部や機体各部のライトで照らしても、一方的に吸い込まれていくばかりである。 5300mもの海水の圧力に屈することなく活動できるのは、ひとえに潜水機という『殻』のお陰に他ならない。 「さて」 操縦席にてジュリアは呟いて、機体をのんびりと進め始めた。α12自体は何度も潜ってきたので慣れがあるのだ。 ニコチンを求める脳細胞と肺胞をなだめ、肩に装備してある三連装魚雷ランチャーを装備する。そして、遺跡にはゴロゴロ転がっている手ごろなブロック状の岩に身を隠し、カメラを遠距離用に切り替えた。 遺跡までの距離はそう遠くない。でも、万が一ガードロボなどがいたら面倒なことになる。 遠距離用スコープ展開。長距離誘導も可能な魚雷の込められたランチャーを構える。 遺跡で一番近い入り口前。拡大、拡大、人間の見えない領域の光を照射、増幅、処理。潜水機よりも小さい人型のガードロボが四機ほどふわりふわりと漂っているのが確認できた。 誘導は必要か? 二人が乗っている機体が誘導出来る魚雷の数は三発が限界だ。それ以上となると正確性に欠ける上、そもそもランチャーが三連装なのだから。 さて、ジュリアはもう一度思考に問いを投げかけた。誘導は必要か、と。 「誘導頼む」 「分かってるわよん。でも高いから撃ちたくない」 「……はぁ、撃つ」 口を尖らせて魚雷の値段を念仏のように唱える相棒を無視。引き金を三回落とし、彼女らが持てうる最大の遠距離攻撃を構成する。 瞬時にクラウディアの頭脳が三次元に魚雷の軌跡を描き出す。キーを叩き、自動で誘導が始まった魚雷三発の軌道を修正、敵の移動すると思われる進路を想定して、爆発の位置までを叩き込む。 魚雷は僅かな気泡を牽引して水中を飛翔していく。やっと気がついたガードロボが回避に移行するが、もう、遅い。四機の数の利を生かす前に、三発の大型魚雷がもたらす膨大な爆発の波に飲まれて粉みじんに砕けて海に散った。 遠距離モード解除。三連装魚雷ランチャーの装填が終了するまでブロックの陰で身を潜める。装填のためにランチャー備え付けの器具がうぃんうぃんと頑張っている。 装填終了。敵の居ないときの装填は大して心に影響を与えないが、戦闘中だと、妙な言い方をすると漏らしてしまうような錯覚を覚える。 それはさておき。 敵が消えたことを確認、ソナーを解禁して遺跡の構造を入手してあった情報と見比べると、ブロックを乗り越えて入り口へと近づいていく。 入り口は、頑強な作りの装甲に鉄鋼弾が飛び込んだよろしく、無理にこじ開けられたように見える。最初に入った人間がそうしたのか、初めから妙な構造として造られているのかは分からない。 不恰好な入り口へ前で機体を止め、頭部ライトを全開にして内部を照らす。ある程度真っ直ぐ行ったところで下に降りれる構造らしい。 遺跡内部ではランチャーよりもランス型のパイルバンカーのほうが頼りになることが多い。遠距離用の魚雷は威力は申し分が無くても、取り回しが効かないのだ。肩から手に握って、入り口へと確認の為に差し込む。 妙な罠は仕掛けられていないようだ。ジュリアは、大胆な動きで入り口から遺跡内部に侵入して、脚部スラスターで中へと進み始めた。 ジュリアは、指で何かを挟む真似をして、その架空のなにかを口に挟む。 「……タバコ吸いたい」 「だ~め。換気装置が不調な上に密室なのよ~? 燻製になっちゃう」 「私は構わないンだけど」 「私がだめなの」 おおらかな性格のクラウディアだって、狭い室内でタバコの煙に包まれて仕事はしたくはあるまい。酒は呑めてもタバコだけは吸わない主義であった。 後部座席に湿った眼を向け、作業を再開した。 嗚呼遠きかな理想郷(喫煙)。 「だから、」 ランス型のパイルバンカーを上段に掲げるや、両手に握って、ガードロボの強固な装甲に突き立てんと。 同時、通常思考領域からパイルバンカーの残弾情報を一時抹消、引き金を落とし、落とし、連射連射、連射。 「いい加減くたばれって言ってんだよ!」 火薬の力で加速された杭が、球体にアームをつけた形状の大型ガードロボの装甲に蜂の羽ばたきかくやという前後運動で破壊を叩きつけ、穿ち、その内部にまで余波を行き渡らせた。 ガードロボの機体から電流が生じて、やがて静かになる。ランス型パイルバンカーが排出した薬莢が連なって落ちて沈黙した。 まさか大型のガードロボが出てくるなんて思ってもいなかった。ジュリアは額の汗を拭って、つい今しがたブチ壊したガードロボの残骸を観察した。装甲に大穴を空けられ内部を破壊されては動けまい。 「激しいんだから♪」 「……勝てないから仕方ない」 ジュリアは意味無くハイテンションな相棒にそう言い、脚部スラスターの出力を上げてガードロボを乗り越え、向こう側へと進む。そこにはのべ棒状の金属が山を成していた。 狭い『部屋』に金属の延べ棒。罠の臭いがプンプンしてくるが、迷うことなく拾い上げる。何も起きなかった。 遺跡に放置された合金は多種多様だ。中には地上でも良くあるくず鉄を掴まされることもあるが。 機体から取り出した小型ネットで延べ棒を括り、腰の収納箱の中に放り込んで蓋を閉める。 『部屋』は飾りと機能性を排除したような……つまり、何も無い空間だ。例の如く回廊を探索したところ、曲がり角のところで見つけたのだ。 「クラウディアー……臭うと思うんだ、ここ」 真面目な口調でジュリアが言えば、クラウディアは今しがた湧き出てきた思い付きをニヤニヤしながら言った。 「ぇぇ~~、私ちゃんとお風呂入ってるん」 「あのねぇ……」 「嘘嘘。たぶんきっとおそらくぜったい何かあると思うわよぉ」 「どっちだよ」 「あるんじゃない?」 どこまでもふざけた会話だが、これが普通だから困ったものだ。 当てにならないどころか聞かないほうが為になるであろうアドバイスをさらりと流し、機体の手を部屋の壁へと押し当てた。装置作動。内部に何かが無いかを探る。 後部座席、クラウディアの目の前に表示された情報。それを処理し、適切なソフトを当てて眼に見える形としていけば、徐々に内部が見えるようになる。 クラウディアは口笛を吹いて、エンターキーを強く叩いた。 「ビンゴぅ!」 「入る」 「なによ~……こう発見の喜びに打ちひしがれて逆立ちでも」 「操縦席で出来るなら、そりゃきっと小人か何かだろ。いいから仕事」 ハルキゲニアの腕の一部が変形、先端の尖った器具がせり出る。それを壁に押し当て、切断をし始める。だが傷一つつかない。ついてはいるが、出力を上げても溶けない。 出力を最大に上げた。だが、いつまでたっても開きそうにない。ジュリアは、カッターを引っ込めた。 「もっとイイの積んでなかったっけ?」 「あったわよー……ガードロボの口に突っ込んで壊しちゃったけどー」 「………わ、悪かったな」 「バンカーでどうにかならない?」 「ちょっと待ってくれ」 カッターでは時間が掛かりすぎる。ということでパイルバンカーで穴を空けられないかを試すことにした。肩から手に握って、カッターを収納。密着させ、引き金に指をかけた。 一発。炸裂、射出、しかし穴は空かず。薬莢が排出されて音をたてた。 ランス型パイルバンカーをどけて壁にライトを当てて見てみるが、多少凹んだ位の変化しか無い。 ジュリアは壁の一箇所を見遣る。そこには、文様の刻まれたプレートのようなものと、端子の差込口のようなものがあった。 これはもしかするとそうなのか? そう思い、背後の相棒に声をかけた。 「これ差し込むってことかね」 「仮にそうだとしても規格も性能も違うあれに入れるのはお勧めできないわ。……突っ込むのはお勧めできないわー、突っ込むのは」 「なぜ、言い直すんだ?」 「んふふ」 良くぞまぁ、深海でもテンションが低下しないものだと感心しつつ、その端子を睨みつける。映画ではこの部分を吹き飛ばすと扉が開くものだが、遺跡にも当てはまるのだろうか? パイルバンカーの状態を確認し、先端を端子に向ける。一瞬の逡巡の後、引き金を落とした。 火薬の力で加速された杭が端子もろとも穴を穿ち、吹き飛ばす。緑色の奇怪な電流が海中に流れたが何も反応が無い。端子の中の構造が垣間見えた。封じられていたのだろうか、気泡が立ち上った。 二人は、その場所を見つめたまま押し黙った。 「ジュリアー……。諦めて次行こー。この場所で頑張っててもしょうがない気がしてきたし」 「そうしよう。もう、正直この場所で頑張ってたらイライラして死にそう」 「じゃあタバコ吸ってもいい……って言わないわよん」 「……ちっ」 ジュリアは唇を撫ぜて、脳裏にタバコの形状を思い浮かべる。細長いそれが恋しくて仕方が無かった。計器の中に紫煙を求めても存在は見えない。 部屋から出るべく脚部スラスターを吹かそうとして、また片方の出力が上がらなくてつんのめるが、可変翼がそれを修正してくれた。そろそろ交換すべきなのかもしれない。 師匠から譲り受けた機体だけに、本体を棄てるのだけは許可出来ない。だが交換も必要。フレームのガタツキも無視は出来ない。 ハルキゲニアはライトを全開にして遺跡の中を駆けていった。 『月光』という名称のタバコを一本咥え、風除けとして片手で覆いを作り、安物ライターで火をつけた。 遺跡からの帰り道。高い位置で煌々と輝く星の海を見上げ、前から押し寄せる大気に紫煙を吐き出し、また吸い込む。クルーザーの揺れで体が上下に動揺するが、怖くは無い。 巡航速度のクルーザーの艦首に座って地平線を見つめる。クラウディアはダイブスーツを脱がずにベットで眠っている。仕事中は疲労を見せないのに、終わると糸の切られたマリオネットのように寝てしまうのだ。 半日の作業で得られたのは、金属の延べ棒やら、電子回路やらが大量。少なくとも燃料代や生活費にはなるであろう。 ジュリアは前髪をかきあげ、またタバコを吸い込む。一酸化炭素やら二酸化炭素やらニコチンやらが細胞を殺す。成分が血中に溶け込んでいくことにより苛立ちが解消されていく。 エンジンの音をBGMに、艦首に寝転んで、両腕を枕とする。本来モノを置く場所に寝転んでいるので狭い。 「ふはぁ……」 タンクトップの中に潮風が入り込んできて体を擽る。一仕事の後の一服は形容しがたい心地よさだった。指に挟み、火を見つめた。 「明日どうしようかな……」 仕事を終えて、明日は時間がある。 ふああ、と可愛げのある欠伸が一つ漏れ出した。ジュリアは、艦首で寝てしまうのは悪いと思っていても、耐え難い睡魔の猛攻に眼を閉じてしまい、やがて寝息を立て始めた。 口からタバコが抜け落ちて海に落ちて音を立てて消えた。 【終了】 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) + ... 名前
https://w.atwiki.jp/kairakunoza/pages/924.html
今日は祭の当日。みんなでかがみの家に集合なんだけど。 行きづらい・・・・・・。あの日以来、かがみと一言も喋っていないんだよね。 とはいえ、行かないわけにもいかないので、私は家を出た。 なにか起こりそうなこの夕焼けの空の下を走りながら。 第三話 【- 雪 -】 かがみの家の前に着くと、もうみゆきさんとつかさが待っていた。 「お~っす、みんな。待った?」 手を小さく上げながら顔だけをこっちに向けている二人に聞く。 「こなたさん、こんばんは。」 改めて体をこっちに向けて挨拶する。 「こんばんは。こなちゃん、今日はいっぱい楽しもうね!」 まるでもう祭が始まっているみたいにつかさが言う。 「・・・、え?あ、うん。そだね!」 あれ?かがみがいない。 「ねえ、かがみは?」 「あ、お姉ちゃんね。検定受けるか、お祭行くかまだ迷ってるの。」 そっか、人生の別かれ道だもんね、当たり前か。 納得していると、みゆきさんが言った。 「あの、そろそろ行かないとおみくじ売り切れちゃいますよ?」 「あ、そっか。『祭おみくじ』って今日だったっけ。」 思い出したようにつかさが言う。 この『祭おみくじ』というのは、ここら辺でしかやっていない珍しいおみくじで、 何日かある祭の日の一日だけ売られているおみくじで、このおみくじ目当てにわざわざ二駅前から来る人もいる。 それほど人気で、しかも数が少ない。 なので、祭が始まると同時におみくじを予約しておくのだ。 そうすれば、自分達が行ったときにおみくじが売り切れていたなんてことはない。 「じゃあ、二人で先行っててよ。私、ここでかがみ待ってるからさ」 その言葉には色々な意味がこめられていた。 「うん、二人の分も予約しておくね。」 「よろしくね。」 笑顔でそう告げると、 行こ?とつかさがみゆきさんに言って、二人で歩いていった。 二人が離れていくのを見て、私は決心した。 今日答えを出そう。 今かがみが降りてきたら悲しいけど、返事を告げて笑顔で祭に行こう。 まあ、かがみが祭りにいければの話だけど。 そんなことを考えていると、上から白いものが一つ、落ちてきた。 それは、ひらひらしながら私の足元に落ちていった。 「雪・・・?」 思わず、口をついて出たのが『 雪 』だった。 しかし、よくみるとそれは紙で出来た雪だった。 その破片には「検定申込書」と書いてあった。 本能的に振り返って家の窓を見上げた。 すると、もっとたくさん、まるでいつかの友達がしてくれた様に『 雪 』は降ってきた。 かがみが軽い気持ちで言った、私の思いでを覚えててくれたことと、 そして何より、かがみが自分より私たちをとってくれたことが嬉しくて、 かがみの家に入って物凄い速さでかがみの部屋に向かった。 「かがみ~!!! 」 私はその勢いでかがみの胸に飛び込んだ。 かがみに顔をうずめる。微かに、あった温もりは恥ずかしさからきていたのかもしれない。 「ちょ、なによこなた。」 何もなかったと振舞おうとするかがみの顔は赤かった。 「かがみ、前私に告白してくれたでしょ。それ、OKするね!」 「えっ!本当に!?」 予想外の言葉に流石のかがみも驚きを隠せなかったようで、目が光っていた。 「うん。私かがみのこと好きだよ?」 嬉しかったのか、かがみは涙を流していた。 そして、気持ちを落ち着かせてからかがみが言った。 「これからよろしくね。こなた!」 ふふふ、と笑いながらかがみを見上げる。 「それじゃ、早く行こう!つかさとみゆきさん待ってるよ!」 「うん!」 そういって、私たちはは祭に向かった。決してが離れないように、しっかりと手を握り合って。 七月の雪。 第四話へ続く コメントフォーム 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/amaya_st/pages/53.html
作者:えすぺらんさぁ タイトル:こちら白夜行! 第三話 その部屋は騒然としていた。むき出しのコンクリート作りの建物。壁という壁、床という床には魔方陣を基にした基本的な式が刻まれ、そこら中に書物や、一見怪奇な道具……式具が散らばっている。おおよそ居住空間とは程遠い。 退院した葵がこの場所を見つけるまでに、4日ほどかかった。何故か――十中八九、桜花の仕業だと彼は踏んでいるが――統括機関に連絡できなかったおかげで、位置の割り出しにかなりの時間を食ってしまった。 繁華街や住宅地からは外れ、開発計画の枠にも入らなかった僻地。その廃ビルの中にそこはある。水道不通、ガス不通、おまけに電力拝借。かろうじて天井にぶら下がる、割れかけの裸電球や、隙間風いらっしゃいませな悲惨な窓ガラスが哀愁を漂わせる。朝日差し込む時間だというのに、やもすれば心霊スポットに仲間入りできそうな風格を持つこの場所こそが、退魔組織、白夜行――本部である。 「しかしまるで魔女の住処か……いや――」 「いるんなら入り口で黄昏てないで、手伝ってくれる?」 御託を遮る、どこか疲れた物言いに、葵 恵は渋々踏み入った。いわゆるひとつの、魔女の巣窟へ。 蔵野 明は、式具を仕込んでいた。参考資料と思しき古びた本と、編集部発行の『月刊、式具礼装』や『決定版 THE・式具』に囲まれている。これだけ有効活用されていれば出版元も本望だろうか。しかしながら、本の山に囲まれるコート姿の人物……年頃の少女にしては、随分不健全な格好である。 案の定、土産に持ってきた『月刊、式具礼装』は引っ手繰られ、彼女はそれに眼を通し始める。しかしざっと読み終えると、それも山の中に乱雑に突っ込まれた。やはり本望ではないかもしれない。 「名前は?」 「葵 恵……葵でいい、というか葵と呼べ。で、何を手伝えって?」 「ナイフ扱える?そこにあるの使って、ここに並んでるやつにルーンの……」 「悪い、無理」 「んじゃそこらに適当に座って待ってて」 申し訳程度に形を保っている、応接用であろうソファーは非常に硬かった。 それからしばらく、葵は明の作業を眺め続けていた。数十本のナイフに器用に式を刻み終えると、手袋―それは明らかによく道端で見かけるくたびれた軍手だが、彼女の名誉のためにもツッコミ・言及は控えた―を、錬金術だろうか、鉄へと変換する。そしてそれに、式を鉄糸で縫いこんでいく。 「こうやって見てると、普通の刺繍か……」 手つきはそれなりに鮮やかだ。下手な腕では鉄布に巻かれて容易に折ってしまいそうな細針で、容易く鉄糸を通していく。材料の粗雑ささえ除けば、あるいは市販の品にさえ劣らないかもしれない。彼の素人目にはそう映った。もっとも、式の詳細などは彼には分からなかったが。 最後のラインに糸を通し終えると、トントンとそれを叩き、床に置く。どうやら完成したらしい。明は大きく身体を伸ばし、あくびとも取れるような呻きをあげた。 そしてその直後、腹の虫の高らかな鳴き声と共にへたり込んだ。 「って、おい」 「お腹、減った……」 見れば飢えと水分不足を示すは乾いた唇と、ややこけた頬。この廃墟にはお似合いかもしれない姿だが、常識で考えればいささか只事ではない。 「……何日食ってない?」 「かれこれ三日四日……眠れないからずーっと、こう……」 「台所に……ってか台所どこだ。とにかくなにか食い物は無いのか」 「無い……仕事で空けてる間に、野良犬やネズミに……」 「……買ってくる」 ちなみに、最寄のコンビにまで、たっぷり自転車で三十分かかった。 「はー……朝ごはんなんて何年ぶりだろう……美味しい」 殆ど名前だけの自己紹介もそこそこに、明は菓子パンとおにぎりを大量に、おそらく三日分を平らげた。いまだ手を止めず、飲み物やお菓子にも手が伸びる。そして、最近はこんなのもあるんだね、などと感心されながら、大量の食料は瞬く間に陥落へと近づいていく。 「もう昼だ……お前、バイトは?」 「雑誌の発行日から届くまではお休み」 「そういうこと言ってられる生活レベルじゃないだろうこれ……」 葵はちびちびと缶コーヒーとアンパンを齧る。もはや侵略される自分のためのはずだった昼食は、半分諦めている。まぁ栄養失調で倒れられても困る、とは言うものの、間違って買ってきてしまったカップ麺(だって、ガスも水道も無いのだもの)を恨めしく眺めていた。 「ってか、水道もガスも無くて……風呂とか、まさか……」 「……公園。石鹸は近所の学校から隠れて拝借してる……いやほら、ちびてるのだけね?」 「ほんっとにプライド無いな、お前」 葵はふと、そんなら稼ぐ必要もなく泥棒家業でやっていけるんじゃないか?などと発想したが、意外と洒落にならない気がしたので、抑えた。そしてそれを取り締まるはずの裁定者として、少し自己嫌悪した。 なお、明の犯行が『消える石鹸、インヴィジィブルマンの怪』などという名目で軽い都市伝説と化していることを、二人は知らない。 「退魔士の報酬とかは?」 「大体お米。物々交換だとアレが一番効率良くって」 「バイト代は?」 「天カス。住所と戸籍無いから、雇ってもらえるとこ自体が少ないし」 「……あ、そう」 葵はふと、訴えれば勝てるんじゃないか、と考えたが、そんなお金も無いだろうな、と即取り消した。 「先ずはそのあたりだな……金銭管理をしっかりして、報酬はちゃんと現金で……」 葵は、家計簿をつける決心をした。きっとこのまま放っておいたらいつか死ぬ……むしろ、ここまでよく生き延びた、とさえ言えるが。 見たところ、本当に食材が無い。米ひと粒、野菜くずひと欠けさえも無い――どころか、生ゴミさえも残ってないのだが、これは深く追求しないことにする――明日からどうするつもりだったのだろうか。 「とりあえずは、今夜あたり仕事しないとな……の、前に」 「前に?」 「お前は寝ておけ。戦闘中にふらりときたら一発だ」 「ベッドそこ」 葵はため息ひとつ、硬い来客用ソファー兼ベッドから降りることとなった。 まもなく、静かになった部屋には、小さく寝息だけが響いた。 「もう寝たか。さて……」 部屋を探ること二十分。先ほど見た、術式を刻んだナイフ数十本、軍手から生まれたガントレット、なんだかよく分からない、駄菓子屋のガチャポンのカプセルらしきもの多数、大量の式具カタログや雑誌と言った“あくまで彼女用の”資料。古い文献などが無いところを見ると、旧白夜行の資料などが残っている様子ではない。その他便箋三通。その中の手紙の内容はかしこまってはいるが、文体は見慣れたものだ。 「桜花か……しっかし、こんな怪しい手紙を……」 素直に信じるのか、と言いかけたところで、便箋に、『500』と形が残っているのに気がつく。硬貨入りだったのだろう。受け取った明の反応が、何故か鮮明に想像できた。葵は呆れながらも、それを元の山へと放る。 彼も、ただ負けた約束のためだけにここに来たわけではない。かつてはこの天夜を牛耳った白夜行……それは暗殺に長けた光術だけで成し得るとは、葵には思い難かった。 暗殺術がいかに優れていようとも、それで『支配』を行うことは出来ない。暗殺した、という事実がばれていてはそれは暗殺とは言えず、必ず報復や処罰の対象となる。裁定者の中には、対人ならば瞬時に相手を死に至らしめるだけの者も少なくない。現に、葵自身もそれが出来る。力を蓄え過ぎ、それを振り翳そうとした組織や人間の排除。裁定者はそのためにある。 しかし白夜行は、少なくとも先代の死までは在り続けた。 「しっかし、怪しいものはなし……」 一通り探したが、何もそれらしい資料は無い。もっとも、一般的に見て“怪しいもの”なら山ほどだが。まだ日は傾かない。葵はそろそろ諦めるか、と適当にカタログを拾い、読み始めた。 いつしか眠りも深くなったのか、寝息はさらに静かになる。沈黙が耳に痛い。他人の家に上がりこんでほったらかしにされるというのは、意外に持て余すものだ。もっともこの場合は、他人の家とは言いがたいものがありはするが。 興味も無い雑誌は適当で切り上げ、ただ沈黙に巻かれ、部屋を眺める。それも数回繰り返し飽きると、虚空へと視線を放る。音楽プレーヤーや携帯ゲーム機を持つ方でもない。携帯電話は通話とメールくらいしか使わない。退屈はいかんともしがたい。 そして最後には、ソファーで安らかに眠る寝顔に、視線を移した。 無防備な寝顔。薄汚れてはいるが、中々に整った顔たちをしている。半端に空いた口、コートの下に見えるバイト着……他に服は無いのだろうか、何故か随分と間抜けに見えてしまう。 「こいつ、黙ってりゃ……」 「可愛いのに、ですか? 月並みでベーシックな独り言ですね」 「……客か? せめてノックしてから入って欲しかったな」 「廃屋にノックする礼儀があるとは存じませんでした。次から気をつけましょう」 音も無くあがりこんだ客人は、段々と紅くなる葵の表情を眺め、眼鏡の向こうの瞳を意地悪に笑ませた。茶色がかった三つ編みの髪に丸眼鏡。研究員風の白衣が少々色気ないが、穏やかな風格は中々、表し難い雅を漂わせる。 しかし。 「ああ、どうぞ続けてください。私のことは気になさらず。後学のためにレポートにまとめさせてもらいますけど」 「ふざけんな……ってか、なにもしねぇよ!」 葵には直感で、この女性に桜花と同じ何か、を感じ取れた気がした。 「まぁ、統括からの仕事の指示です。今後しばらくは私……天城 比観が伝達などをさせていただきますのでよろしく」 再び垣間見る天城の微笑に、葵にはもう、嫌な予感と妙な不快感しか感じ取れなかった。 「よろしく……とりあえず、現物支給やめて現金支給に。あと給料制に出来たろ報酬。それで頼む」 「そのあたりは既に手配済みです。正式な給金は後程支給になりますが、とりあえず生活が苦しい様子なら状況に応じてカンパして来るように言い付かっています」 天城は、辺りに散らかる昼食跡を眺め、にっこりと微笑む。 「そうですね。どうやら結構余裕もありそうなので、二千円で」 「……タイミング計って来やがったな?」 「まぁ冗談はこれくらいで。しばらく、白夜行には通常組織業務に加え、貴方の仕事である裁定者業務を並列していただくことになります」 「ああ……」 適当に頷き、ため息を零す。天城は構わずに続ける。 「幸い、このあたりは縄張り争いが頻繁と聞きます。彼女は場合によっては、蔵野明は裁定者として起用すると考えているようですし。そして――」 「こいつの手の内は知っとけ、てか?」 「……意外でした。これ、資料になります。いちゃいちゃしないで仕事をしてくれそうで安心です」 話を遮られたのが気に入らなかったのか、天城は本日一番の満面の笑みを向けた。対して葵は、 「眼科行け」 慣れたように、笑顔で返した。 「それでは、お暇します。仕事が進まなければ、桜花への報告は“イチャイチャしていました”になるのでそのつもりで」 明が目覚めたのは、客人の御帰りから30分ほど経過した後だった。既に日は傾き大分経ち黄昏時。退魔士の活動開始時間と言えよう。 起き上がろうとすると、ふと、手に何かが触れた。 「やっとか……来客あった。そのことで色々と話があって……」 「ねぇ」 気づけば明は、それを拾い上げて、夕日に透かして眺めていた。葵から見れば、それは単なる、何の変哲も無い千円札二枚なのだが――明の視線は、少々ずれていた。呆けた声で、一言 「夏目漱石ってパーマかけてたっけ?」 と、真剣に言う彼女を見て、 「……今は野口さんだ」 葵は、なんだか無性に泣きたくなった。 夜の帳も、落ちておおよそ二刻ほど経った。街の北、繁華街はネオンの明かりも煌々と賑わい、これから活気付く夜を彩るだろう。 そして、人ならざる者は、その光のわずかに届く場所で、活動を始める。それを追う、そして狩る、退魔士達もそれは同じだ。 白夜行も――実は非常に珍しいが――それに漏れず、夜道を闊歩していた。 獲物は犬神。犬と呼ぶには小さい形で、僅か先端、二つに裂けた尾を持つそれは文字通りに犬の霊魂により生まれる、憑き物にも成り得る妖怪。ビルの谷間を縄張りのごとく唸る五匹のそれを、二人は、それぞれ構えて見据えた。 明の得物は変わらず、両の手に式を刻んだナイフ。ただし、式はその刃を隠す光の術ではない。銀色に月明かりを照り返すそれを、アピールするかのように、斜めに構え、切っ先を向ける。 葵はというと、懐から四角形の、盆のようなもの取り出す。金色の地に黒と赤で描かれるは六壬神課を表す。 ゆらり。犬神側が動きを見せる。五つの影は列を成し、二人めがけて、突進の姿勢をとる。先に対応したのは、明だった。前に出、犬神の列を正面に見据える。 「五体。早いもん勝ち!」 犬神がぶつかる……その瞬間。低く翻した身を軸に、銀の弧が先頭の犬神を二分した。 本来、霊体である敵に、ナイフのような物理攻撃は触れ得る事すらない。明が刃に仕込んだのは、銀の術式。古くから魔除けや破邪に用いられるそれは、霊体は勿論、他の異形にも相応の威力を発揮する。 「先ず一匹!」 すかさず、列を崩され動揺する残りの四体へと姿勢を向ける。コートの裏から魔力を注がれたナイフが四本、零れ落ちる。 「二匹目!」 そしてコンクリの地に小さく音を立てて跳ねたそれは、次々に犬神の額へと飛び込んだ。額を撃ち抜かれた一匹が嘆くような断末魔を上げ、その姿が塵霞のように霧散し、消える。 「“今度こそ”、私の勝ち!」 残りの三本も、それぞれ残った、狼狽する犬神の額へと、一直線に空を駆ける。 “今度こそ”、“先に”仕留めたつもりだった。 一瞬、涼しい、冷たい、凍てつく風を、肌に感じた。ナイフは、甲高い音を立てた。 「三、四、五匹。残念、“また”俺の勝ち」 風水の盤に刻まれた術式は二つ。把握の概念式、そして水。空気中の『水分』を座標として『把握』する、ただそれだけのものである。そして最後には、葵自身の才覚である氷結が、それを変幻自在の武器へと変える。 額に、虚空から唐突に。氷柱を打ち付けられた残り三匹の消える様を眺めながら、明は不機嫌そうに呻いた。既に十連敗。明の内心には、それが大きく響いていた。 数日前の件。鳳 雅の件。自身の攻撃力不足を体感し、結局、異形だとは言えども彼を助けることも叶わず、姫月アヤメに畏怖を感じた。明るい陽光の下、誰に邪魔されるでも、比べられるでもなく、日の下、人の中にあり本来の力を発揮できない異形の首を取り、自分だけが出来ることに唯我独尊を覚えていた明にとって、それは初めて体感した、退魔士の在るべき姿とも言える。 自分は遠く及びつかないところにいる。それは明の中にむず痒く残った。 「さて……次は“裁定者”の仕事だ」 不意に、葵が呟く。近づく足音が聞こえる。反響の具合から、ふたつ程か。 中規模組織――その中でも下っぱに主に言えることだが、それが密集した地帯では、縄張り争いが起こり易い。ここ天夜では、白夜行支配が続いていたギャップもあり、周囲に己より権力の大きな組織が出来るのを懸念し、それぞれの組織は互いに追い越されるのを特に嫌う。 そういった小さな小競り合いの収集も統括組織の司るところであり、延いては、対人専門である裁定者の仕事となる。 「今度は、お前がやってみろよ」 聞くが早いか否か。明の姿は、もう葵には視認出来なかった。 裁定者としての仕事は、明には容易かった。因縁を売りにやってきた二人の男は気付かぬうちに背後を取られ、気付いたときには、その背に銀色の刃が丁寧に添えられた状態となっていた。結果、その状態で葵から軽い説教を受け、退散する。 「やっぱお前、こっちの方が向いてるな」 「ん……」 喜べない。これは自分には向いていない。明は、そう感じた。ナイフを持つ手が、微かに震える。何故だか、寒気のような感覚が刺す。得体知れぬおぼろげな恐怖が、そこにはあった。葵が怪訝な表情で覗き込む。 しかしそれはすぐに、路地の奥へと向けられる。反響する足音。次はひとつ。目配せを受けると共に、明は再び、姿を隠した。 ゆっくりと、しっかり踏みしめる足音。 現れた人物は、ニヤニヤと笑顔を携えた年を召した男だった。背丈は中々高く、赤く染めたセミロングの髪はオールバックで、後方に流すように整えられている。薄紫の、なにやら長物があるらしい大袋を背負い、広い肩幅で黒のトレンチコートを着こなし泰然と歩む姿は、軽い笑みを浮かべながらでも、それなりの風格を成す。 歩みを止めると老人は、ニヤリと笑い、告げた。 「恵ちゃん、このあたりは実は今、俺の縄張りだったんだけどなぁ」 対して 「裁定者が縄張り語らんでください。それと名前で呼ぶな」 葵は、ため息をついた。 赤星 雄途。それが、この男の名である。裁定者であり、その中でも最高齢の古株。戦闘技能こそ年齢などで他に劣りはするが、こと発言力・統率力において、まずこの男の右に出るものは挙がらない。 「なに、最近異形、もしくは退魔士の物と思しき殺人の捜査に当てられたんだが、これが存外に暇でな」 赤星は背に手を回し、大げさなアクションを付け、笑う。 「だから縄張り争いしてるのをからかうのが日課だったんだが、お前さん“ら”が奪ってくれた」 赤星の口元が、より一層の綻びを見せる、その瞬間。金属音が高く路地に響く。姿を隠していた明が察して退くよりも早く、布からあらわになった長槍の石突が、明の手に持つナイフを弾いた。 「っつ……!?」 唐突の出来事に、呆然とする明を尻目に、赤星は笑みを消し、葵に語りかける。 「恵ちゃんは負けたって? 相変わらず手加減しすぎだな」 「相変わらずうっさい爺さんだな……」 葵は迷惑そうに、追い払うような手振りをしてみせる。赤星は、勿論そんな葵をまるで意に介しはしないが。 「なに、もしかしたら新しい裁定者候補、とも聞いたんでな」 そこまで語ると、赤星は槍を掴み、それを明の喉下へと向けるように、構えた。 「手合いを」 明は応答するように頷くと、相対するように、弾かれたナイフに代わるよう、左のそれを右手に持ち替えた。 「葵」 「まったく。相変わらずじじいに似合わねぇでしゃばりめ」 中空に、氷の珠が作り出される。そしてそれが、地面へと吸い込まれるように、綺麗に落下していく。 静かなゴングが鳴らされた。 素早く打って出たのは赤星だった。クルクルと器用に槍を腕の内で踊らせ、横に縦にと自在に打ち込む。 「うわっ、たっ!」 それをナイフでいなし、幾度か切り結ぶと、高いステップで踏み込み、一先ず、大きく一歩退く。隠レ蓑を起動。同時に、握ったナイフの光術迷彩を起動。たとえ見抜かれようと、一瞬でも隙を作ることが出来れば十分だ、明はそう判断した。 明の左手は既に投擲ナイフを握る。手早く相手の動きを封じ、詰むために、狙いはコート。着地、そして同時に、不可視のコートの裏より投げる。 次いで響いたのは、明のナイフの弾かれる音だった。 「っは……」 最初は、投擲したナイフの弾かれる音だと思っていた。しかし、手の痺れが認識を正す。 間合いを詰められ、握った不可視のナイフは高く宙を舞った。自分の放ったナイフは、追尾の式の効果を失い、地に転がっている。 隠レ蓑の術式をも、明の意を介さず、解かれる。 「擬似聖骸布。オリジナルには及ばんだろうが、触れた物の魔術を霧散させる」 ゆっくり、歩み寄る。 「裁定者を相手にするなら、殺すとは言わずとも大怪我のひとつでも負わせる気概がなくては」 槍の切っ先が、明の眉間へと向けられる。 だが、明はそのとき、悪戯に微笑んで見せた。 「怪我、させていいんだね?」 風斬る音。察した赤星が飛び退く。彼の弾いたナイフが二本、明の手元へと勢いを付けて帰ってきたのだ。 しかし当たらなかった。明は軽く表情を苦々しくして見せる。 鉄手甲に施した術式は、失せ物探しのルーンの応用。それに引き寄せられたナイフ自体は魔力を伴う物ではないので、聖骸布を突き抜けられる、はずだったのだ。 しかし、明にとってはこの瞬間、まだチャンスは続いている。 「もらった!」 すかさず明は、コートから零した球――見てくれはガチャポンのカプセルである――を、赤星の後方めがけて蹴飛ばす。 切り札は炸裂し、煌々と日の如く、輝き始める。そして 「影! 踏ん、だ!」 それに照らされる赤星の影へ、飛び込む。 影縫い。古来からその呼び名は有名である。影をその実体に見立て封じ、実体の自由を奪う呪い。何かを実物に見立てる、という意味では、似たような物にあの有名な『丑の刻参り』があるが、影は実体に近いため、この呪いは効き易い。 このとき明は、独自に作り出した光術の式で、特に実体に近い存在の影を作り出した。術は完璧に成功している。そのままナイフを赤星の首に突きつければ、勝ちだ。 しかし、明は影を踏んだ着地姿勢のまま、硬直した。身体が動かない、指の一本揺り動かすことも叶わない。 やがて、光が消える。それでも、明の身に自由は戻らない。ゆっくりと、首に穂先が突きつけられる。 「良い線だったが……詰めが甘いな」 老人は再び微笑む。勝負あった、とばかりに、動けぬ明の目の前で槍をしまって見せた。そして、明の“影”から、一本の杭を引き抜く。明の身体に、自由が帰ってくる。 「擬似聖釘……もはや、説明は必要ないな」 「大人げねぇー」 「何を言う。手加減して負けた恵ちゃん」 悪態をつく言葉に、葵はケッと吐き捨てるようにし、顔をしかめる。しかし赤星の表情に、先ほどまでのおちゃらけた様子は無い。 「裁定者ってのは抑止力になる必要がある。一度の敗けがどれだけ響くか、もうちょい頭回せよ」 赤星は、足を帰路へと向ける。振り向きもせず、最後に 「良い暇つぶしだった……が、お前さんまだまだだな。葵、ちゃぁんと指導してやれよ?」 高らかに笑った。 そして 「こっちの事情も知らないで……」 呟く葵の言葉をかき消し、去る赤星の姿を追うように 「くぁぁぁぁ!!」 十一敗分の間抜けた叫び声が、路地を埋めた。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1661.html
501 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/22(火) 02 12 13 ID 8SCKrobU 「「お帰りなさいませ、お嬢様」」 「ただいま」 毎日よく同じ台詞を言えるわね。仕事か。 「里奈様。お鞄をお預かりします」 アタシ専属のメイド、桃花(トウカ)がいつものように鞄を持ってゆく。 「お父様は?」 「旦那様はお仕事中で書斎におりますが。お呼び致しましょうか?」 日曜日なのに仕事。あの人も相変わらずだ。 死んだお母様は何故あんな人と結婚したのだろう。 「いいえ、終わるまで待っているから結構よ」 エントランスを通りリビングへと向かう。広い豪邸。召使しか動いていない、活気のない豪邸。 これがアタシ、藤川里奈の日常だ。 「あ、姉さん。お帰りなさい。珍しいね、日曜日に外出なんて」 リビングでは高校生の弟、藤川英(フジカワハナ)がくつろいでいた。 「アンタこそ珍しいわね。探偵ごっこはどうしたの?」 無駄に多いソファーに座る。やはりフカフカだった。勿論弟とは距離を取る。 「今日はお休み。リーダーが調子悪くてね。あ、探偵ってより何でも屋かな」 「あっそ」 アタシは弟が嫌いだ。昔から何でもそつなくこなし、頭も良い。 今通っている東桜(トウオウ)高校だって県下一のトップ校だ。 ルックスも良いから周りからの評価も高い。そのくせ人に関心がないし、 いつも飄々としている。ハッキリ言ってムカつくのだ。 「そういえば姉さん、今月号にも出てたね」 そう言いながら弟は読んでいた雑誌を見せてくる。若い女の子達が読む雑誌だ。 「何でアンタがそんなの持ってるのよ」 「仲間から貸して貰ったんだ。"これ英のお姉ちゃん!?"って言われてさ」 あの人…お父様に勧められてモデルをしている。 どうせ藤川の名を上げるために利用されているだけだが。それより 「仲間…ねぇ」 弟が何かに執着するなんて珍しい。 「アンタ、仲間とか信じるタイプだった?」 「いいや。でも今回は本気だよ」 「ふーん」 まさか弟の口から"仲間"なんて言葉を聞く日が来るとはね。 「ねぇ、アンタの仲間って…!」 誰かが階段を降りて来る音がした。アタシは瞬時に気持ちを切り替える。 アタシからわたしへ。弟もわたしの変化に気付いたようだ。 軽くため息をつくと雑誌を読みはじめた。 502 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/22(火) 02 13 44 ID 8SCKrobU 「おおっ、愛しき我が娘よ、帰ってきたか!」 白髪でスラリとした細身の長身に糊の効いたスーツ。 これが様々な事業に手を伸ばし一代で日本有数の大企業、藤川コーポレーションを 作り上げたカリスマ社長にしてわたしの父親、藤川栄作(エイサク)である。 「只今帰りました、お父様。遅くなってしまい大変申し訳ありません」 「いやいや、お前が無事ならそれで良いんだ。…ん?何だ、英もいたのか」 今英に気付いたかのように大袈裟に振る舞う。わざとらしくて反吐が出る。 「こんばんは、お父様」 微笑みながら弟が挨拶する。わたしと同じ、仮面の挨拶。 「そうだ!里奈、お前にピッタリな服を取り寄せたぞ!まあモデルのお前に合うかは正直自信がないがな」 「ありがとうございます、お父様」 弟の挨拶を無視して話し掛けてくる。わたしも仮面の笑顔を見せる。 「相変わらず素晴らしい笑顔だ!私なら十億は払うね」 …耐えなくては。今日は目的があるのだから。 「そういえばお父様。実は今日はお願いがございまして」 「何だね?里奈のお願いなら何でも聞いてあげるよ」 「実は欲しいものがあります」 「一体なんだい?」 緊張する。でも言わなくては。やらなくてはならない。彼に頼るのはこれが最初で最後にするんだ。 「わたしが欲しいのは…」 「ふぅ」 上手くいった。お父様はすぐに了承してくれた。気持ちを戻す。ソファーに倒れ込んだ。 「珍しい、というか初めてじゃない?姉さんがお父様にお願いするの」 弟の言う通り、アタシは今まで最低限の出費以外は全て自分で何とかしてきた。 居酒屋のバイトだってそのためだ。しかし今回は他に打つ手が無かった。 「アンタには関係ないでしょ」 ここはマズイ。せめて自分の部屋に戻らないと。 「そうだね。…でも何か企んでるんじゃない?」 リビングを後にする。振り返りはしない。 「探偵気取り?」 「うーん。勘かな?まあ頑張ってね」 アタシは弟を無視して部屋に戻った。 …欲しいものは手に入れるの。絶対諦めない。絶対に。 「遠野君…」 彼の名をそっと呟いた。 503 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/22(火) 02 15 46 ID 8SCKrobU 一日で17回。何の回数かって?そりゃあ聞くのは野暮ってもんですよ、旦那。 「…まだ腰が痛い」 「本当にゴメン!ライムが可愛いからつい…」 「ま、まあ男だったら仕方ないし。それに女として求められるのも…い、嫌じゃないわ」 「………」 「って無言で胸を揉むな!」 すいません。一日で17回射精しました。しかも全部中でした。 どうみても猿です本当にありがとうございました。 「あはは、つーか気付いたら夜だったな」 「亙のせいでしょうが!」 「ライムだってあんなに悦んでたく「黙らないと殺す」すいません」 しかし身体の相性もバッチリなようで。本当に運命ってあるのかもなぁ。 「とにかく何か食べましょ。本当は作ってあげたいんだけど今日は無理ね。材料ないし…腰は痛いし!」 「ピザなんか良いんじゃ「無視すんな!」」 ナイス右ストレート!! 「…じゃあピザにしよっか」 「ふぁい」 まあとにもかくにも俺には鮎樫らいむもとい、ライム=コーデルフィアという アイドルな彼女が出来た訳で。まさに幸せ、順風満帆なのであった。 「じゃあ電話してくるわ」 亙はけだるい体を起こしてピザを注文しにベッドを抜けた。 部屋にはライム一人。亙との温もりを確かめるようにお腹を摩る。 「早く大きくなるんだぞ?お父さんも楽しみにしてるから」 とても穏やかな笑顔がそこにはあった。幸せに満たされた表情。 昨日のライブの帰り、頭が痛いと言って近くの薬局に寄って買った妊娠補助剤は効いただろうか。 「危険日だったし、あれだけ出せば大丈夫よね。…流石に17回は予想外だったけど」 しかし嫌な気持ちはしない。というか嫌な訳がない。 亙に求められたのだ。嬉しいに決まっている。 「ふぅ」 ゆっくりとベッドに倒れる。母の遺品にあった手帳。唯一の母の形見。 何度となく読み返したその中の日記。遠野という親友がいてもうすぐ息子が産まれる。 お互いに逢わせたい。きっと仲良くなる。そんな内容だった。 逢いたかった。一度で良いからその遠野君に逢いたかった。 もしかしたら彼なら私を必要としてくれるかもしれない。だから日本に来た。 元々そのために一生懸命日本語を勉強した訳だし。そして住所を突き止め助けてもらった。 多分一目惚れ。それから半年かかったが。 「これで亙は私のモノ。もう誰にも渡さない。うふふっ、あはは、あはははははははは!」 抑え切れない笑いが込み上げて来る。 何だろう、このどす黒い感情は。ライムの笑いはしばらく止まらなかった。 504 :きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/22(火) 02 17 52 ID 8SCKrobU 朝起きるとメールが来ていた。 ライムの所属事務所の社長からで、俺一人で来てほしいとのことだった。 「スケジュールは午後からだから、昼までには帰ってくるよ」 「分かったわ。…じゃあ昨日は作れなかった手料理で迎えてあげる」 何か新婚の夫婦みたいな気分だ。 「ああ、じゃあ行ってきます」 「あ、忘れ物」 振り返るといきなりキスをされた。 これが"いってらっしゃいのチュー"ってヤツか。 …いや、少し濃厚過ぎないかな? 1分くらいしてようやく離して貰えた。 「…いってらっしゃい」 顔を赤らめて恥ずかしそうに言うライム。 「…い、いってきます」 新婚さんって毎日大変なんだな。 社長室に入ると社長だけではなく、黒服を来た男達が数人端に待機していた。 「おはようございます、社長。…あの黒服の方々は?」 「ああ、おはよう。彼らのことは後で話す」 社長は怯えているようだった。何か嫌な予感がする。 「それより今日君を呼んだのは、一つ伝えなくてはいけないことがあってね」 「それは一体…」 「簡潔に言おう。君はクビだ」 「…はい?」 頭が真っ白になる。クビって誰に? まさかライムじゃないだろうし…。 「鮎樫らいむには別の専属マネージャーをつける。君は必要ない」 「………」 「その代わり、君には別の場所へ行ってもらう」 「別の…場所?」 別の事務所へでも行くのだろうか。死んでもゴメンだが。 「…行けば分かる」 社長のその言葉を合図に黒服達が一斉に俺を取り押さえに来た。 抵抗しようとするが相手はかなりの実力者。 しかも多数なので程なく地面に組み伏せられた。 「っ!離せよっ!」 抵抗するが上から押さえ付けられ上手くいかない。 「本当にすまない。しかしこれも事務所と鮎樫らいむのためなんだ…」 「それは一体どういう…っ!?」 いきなり何かを注射され、意識が遠くなる。 「…終わった?」 最後に聞こえたのは扉の開く音と、聞いたことのある声だった。
https://w.atwiki.jp/majokkoxheroine/pages/39.html
第三話 『まよなかメトロノーム』 必死に懺悔を続けていた二人の泣き声は、いつからか静かな寝息に変わる。 天井に空いた無数の丸窓からは柔らかな月明かりが差し込み、ホールを青いモノトーンで彩っていた。 釣り下がっている巨大なシャンデリア兼来客ベルは、明かりをともす物ではないらしく、昼の間だけ光を反射して取り込むだけらしい。 お姉さんが小さくため息をつき、銃のような杖をひらりと振るう。 ぽん、という音と共に現れたのは、可愛らしくも巨大な天井付きベッドであった。 「そこの方、ゆゆるをお願いします」 お姉さんは自分とあまり変わらない身長のきりりちゃんを背中に抱え、よろよろとベッドまで歩き始める。 「あ、はいはい」 言ってくれれば二人とも運ぶのに、とゆゆるちゃんを抱きかかえ、きりりちゃんと並べてから毛布を掛ける。 泣きはらした目が、叱ってやれなかった俺に対して何かをちくちくと突き立てていた。 「さて、退屈かもしれませんが少しだけ私の話を聞いてください」 青白いホールにぺたぺたとスリッパの音が響く。 出しっぱなしだったテーブルチェアにお姉さんがそっと腰を下ろすと、薄い水色のワンピースが僅かに膨らんだ胸をふわりと撫でた。 「まず最初に一つ謝らせてください。本当はすぐにでも人間界へ戻すべきところですが、一度受理されてしまった召喚申請に関しては多少時間が必要なのです」 まあ、夏期休暇中だし魔女の世界を観光するのも楽しそうではあるな、などと思い始めていたところなのでそれは別によさそうだ。 「基本的には申請書に記された期間を満了しない限り、元の世界へ戻る事はできません」 「ああ、でも四、五日ぐらいだった別に俺は――」 「きりりが記入した期限は二百年です」 なんと、さすがの俺もそんなに長寿ではないのである。 「ただ、これに関しては私の方で書き換え申請を出しますので、高等部の権限を活かせば二日ほどで再認可されるでしょう」 「そりゃ助かります」 床まで伸びた髪をさらりと掻き揚げると、その柔らかい影が俺の足元を撫でた。 「問題はその二日間です。人間がここへ来るのは初めての事なので、私自身も少々戸惑いを感じますが、確実に言える注意点が二つあります」 俺は長いものには巻かれる性格なので、魔女の世界に来たのならそれに従うべきなのであり、それよりなにより、お姉さんは偉大な魔女っぽい風格をもっているので、心して肝に銘じておかねばなるまい。 「まず、魔女の集まる場所へ行ってはいけません。今のあの子たちのように眠ってでもいなければ、私たちは意識せずとも近くの人間から想像力を吸収してしまうのです」 これは分かる。お姉さんが来た時、つまり魔女が三人になった時点で俺の思考力は現状を認識することぐらいしか出来ない状態になっていたのだから。 「大量の魔女に囲まれでもしたら、自我を保つことすらままならないでしょう」 ちらりと俺を覗き、一度小さく息を吸ってから、お姉さんは続ける。 「もう一つ、私たち魔女があなたに危害を加えることはないと思いますが、たった一人だけ例外がいると想定します、これはあくまでも可能性ですが」 危害といっても、きりりちゃんぐらいのお転婆魔女ならどうにでもなるだろう、と甘い考えを見抜かれたのか、お姉さんの真剣な目がその危険性を十分に伝える。 「ちるるという名の魔女、これは人間に対し激しい憎しみを抱いています」 「と言われますと」 「何をしでかすか分かりません」 いや、なんかもうそんな風に言われてしまったら、俺はずっとここで二日過ごしてた方がよいのではなかろうか? まじょりんまじょりんでも見ながら。 「しかしあなたは初めて魔女界と人間界の往来を許可された人。できれば私としてもこの世界のことを知って欲しいのです。先ほども言った通り、ちるるの事はあくまでも可能性」 青いホールの中、立ち上がったお姉さんのシルエットがぺたぺたと近づいてくる。 「私とちるるも昔はいつも一緒でした、もちろん二人で人間界へ行った事もあります」 その視線の先では、小さな二人の魔女がすやすやと寝息を立てていた。 「ただ、そこでの出会いは千年の時を生きる私たちにとって、辛く悲しい思い出しか残せませんでした」 うっすらと光で縁取られた頬に、一筋の涙が零れ落ちるのを俺は見た。 「ですから、どうか。ゆゆるたちには……」 そう言って手を握るお姉さんは偉大な魔女であり、その貫禄から鑑みるに過去にとてつもなく悲しい出来事があったのであろう、と俺は考える。 しかし、ここは男として考えるだけにとどまり、深く聞くのはやめておこうと思う。 「あれー、おねえちゃんたちおきてたの?」 ベッドの上で起き上がったゆゆるちゃんの頭の上では、結わえた髪もくったりと眠そうにしていた。 「ええ、お姉さんはもう行きますからね。今日はここでお泊りなさい」 「あーそうだ、ゆゆるのたこぼう、ちょうしわるいんだけど」 目をこすりながら放たれる欠伸交じりの言葉に、なにか安らぎを感じる。 「では明日にでもこの方と杖の木へ行ってみるといいでしょう」 「えー、いいの?」 不適な笑い声を漏らしながら、ゆゆるちゃんがぽふんと音をたてて再び眠りにつく。 「さきほどの注意、忘れないように。では申請局へ行ってきますので」 「あ、なんだかお手数かけます」 去っていく後姿を見送り、静かに閉ざされた扉をしばし見つめた後、俺もまたベッドの端へ潜り込んで深い眠りに落ちていく。 それは何か、垣間見てしまった魔女たちの寂しさから目を塞ぐようにして。 つづく